細々

水貴
水貴(ブルンゲル♀)
バナーは結構前に変えてたんですけど、元絵載せてなかった。

こちら放置気味ですが、設定の方は随時更新しております。
ツイッターの方でよく呟いてますけど、ほんと、気軽に遊んでほしい…最近春絡みに対しては若干慎重な姿勢見せ始めてますが、基本的にゆるゆるですし楽しく遊べたらそれが一番だなーって思ってますハイ。


さて、追記に文章。
くろがみさん宅のお子さん方をお借りしています。書かせて頂き有難う御座いました!!!
特に山も落ちも無いんですけど、どちらかというとプロローグっぽい雰囲気の内容になっています。ホプキンス様とブラッドレイさん。



「ねぇ、ホプキンスさん。今度の週末は空いてる?」
アフロディテにそう尋ねられ、ホプキンスは読みかけの学術書を静かに閉じた。
もう百年もの付き合いをしている二人にとっては、沈黙も一種のコミュニケーションのようなものだ。街角の小さなカフェでテーブルを挟んでいても、終始会話をしているわけではない。今も丁度、会話が途切れて各自思い思いに時間を過ごしていたところである。
栞も挟まずに閉じた本は、既に内容を暗記済みだ。微塵も気に留めること無く机の上に置き、ホプキンスはアフロディテに視線を向ける。
「勿論、女神の誘いとあらば喜んでご一緒させてもらうが?」
「ふふ、ホプキンスさんならそう言ってくれると思ってたわ。あのね、週末に舞台があるんだけど」
「おや。お前が出る舞台は把握しているつもりだったが……役者が変わりでもしたか?」
「あ、違うの。私が出るやつじゃなくて」
小さく笑い、アフロディテは隣に腰掛けるエスパーダへと右手を伸ばした。アフロディテの所有物を自称する彼は、決して自己主張することなく静かに二人の会話を聞いていたが、アフロディテの求めには即座に応じる。その名が意味する通りエスパーダは剣の筈だが、傍から見ればアフロディテの付き人兼家政夫といったところだ。
エスパーダは素早く荷物の中から一枚の紙切れを取り出すと、アフロディテに手渡した。
「ロディ様、どうぞ」
「有難う、エスパ。ほら、ホプキンスさん。これなんだけど」
「どれ」
アフロディテから紙切れを受け取り、ホプキンスはしげしげとそれを眺める。
小さな紙切れかと思ったが、どうやらチケットのようだ。普段アフロディテに渡されるチケットと比べると、大きさも紙質もワンランク下がるが。
「……ガラテイアか」
「ええ。リオンがね、新作をやるから観に来てって。ホプキンスさんも一緒に行きましょうよ」
「そうだな」
正直、アフロディテ以外の役者にはそこまで魅力を感じないのだが……他でもない彼女の誘いだ。たまには肩を並べての観劇というのもいいだろう。
確か、リオン――ピグマリオンはアフロディテの愛弟子だ。普段から相当な自信を持って推しているし、きっといい舞台を作るのだろう。
「次の週末だな?お前の弟子の舞台、楽しみにしているぞ」
「有難う。今回はね、少し大掛かりな作品らしくて。いつもはリオンはあんまり出ないんだけど、今回は役者としても出るそうなのよ。臨時で役者増員したとも言ってたし……。会場もね、ガラテイアの劇場じゃ小さいみたいでオリンポスのを貸すことになってるの」
「ほう。お前は出てやらなくてもよかったのか?」
「次の仕事の準備があってね。ガラテイアのに出るとそっちが回らなくなっちゃうの。だから、今回はだーめ」
「そうか。そちらの舞台も、公演が始まったら観に行かせて貰おう」
「うふふ。一番いいチケット確保しておくわ」
にこりと笑うアフロディテに返す様に唇の端を上げ、ホプキンスはチケットを懐にしまい込んだ。
チケットに記された公演日は、来週末の昼。


「ポップちゃんポップちゃん!こんにちははー!」
「あっネルネル!こんにちははー!」
リオネルの声に、ロリポップは弾かれたように顔を上げる。
特に待ち合わせはしていないが、暗黙の了解のようなもので、ガラテイアの公演の一週間前には必ずリオネルはロリポップに会いに来ていた。目的は勿論、チケットを渡す為である。
「ポップちゃん、会いたかったですよよー。最近は稽古であまり外に出てませんでしたからから」
「だねっ!ネルネルに会うの久し振りだもん!」
並んで歩きながら、リオネルとロリポップは近況を報告し合う。年齢こそ離れているが、気の合う友人同士だ。会話は途切れることがない。
「最近は何かありましたかか?」
「うーんとね……そうだ、この前しゅららんとお出掛けしたよ!しゅららん、あんまり楽しくなさそうだったけど……」
「あれれ、そうなんですかか?」
思い出したのだろう、ロリポップの表情が僅かに曇る。
「うん。お買い物する時とかね、『私は待ってるから』って、あたしがお金払ってる間ずっと離れたところにいたの。こっち見てはいたけど」
「あー……そうなんですかか」
激しい色違い差別に合ってきた阿修羅姫は、共にいることでロリポップまで要らぬ批判を浴びることを恐れたのだろう。同行者というには遠く、しかし何かあればすぐに駆け付けられる距離を保って、ロリポップを守っていたに違いない。
「ねぇネルネル。もし余ってたらなんだけど、チケット三枚貰っちゃだめ?あたしとレイちゃんと、しゅららんにもね、楽しいなって思って欲しいの」
無理言ってごめんね。そう小さく謝るロリポップに、リオネルは優しく笑う。ぽんぽんと彼女の頭を撫でると、勿体ぶった様子でチケットを取り出した。
「じゃーん!さてポップちゃん、ここにチケットがありますます」
「え?うん」
「さてさてこのチケット、何枚あるでしょうかか?」
「えーと……あっ!三枚っ!」
「正解ですですっ!」
ぱぁっと明るい笑顔を浮かべるロリポップに、リオネルはチケットを差し出した。ロリポップはそれを受け取り、リオネルに礼を言う。
「わぁ、本当にいいの!?有難うネルネル!」
「勿論、良いに決まってますます!実はですねね、今回はちょっと規模が大きい舞台でして。出演者も何時もより多いからと関係者席のチケットも少し多めに渡されてたんですよよ。おかげで会場もいつもと違うところなんですけどねね」
「そうなの?」
「はい。来る時に迷子にならないよう、気を付けてくださいねね。今回は、劇団オリンポスの劇場をお借りしてるんですです」
「うん!有難うネルネル!」
大きく頷くと、ロリポップは全身で喜びを表現するようにリオネルに抱き付いた。
チケットに記された公演日は、来週末の昼。


**********


劇団オリンポスの専用劇場は劇団ガラテイアのそれに比べて一回り以上広く、豪華絢爛な内装をしている。天まで届くのではと思うほど高い天井に、ずらりと並んだ観客席の波。左右にはバルコニー席が設けられており、そのひとつに引かれているカーテンがふわりと開かれた。
「ロディ様、ホプキンス様、こちらへどうぞ」
「有り難う、エスパ。ささ、ホプキンスさん座って座って!」
「アフロディテ、こういう時はレディファーストだろう?」
上手側の、舞台に一番近いバルコニー席。ここは、普段アフロディテの舞台を鑑賞する際にも利用するホプキンスの指定席だ。要人が多く利用するバルコニー席は、プライバシー保護の為だろう。隣のバルコニーにいる客の顔は見えない造りになっている。
「今日はバルコニーも満員なのか?」
「ええ、バルコニーを関係者席にしてるの。おかげでいつもの席も確保しやすかったわ」
「そうか。これだけあれば、相当な人数が呼べるだろうな」
「皆張り切ってたわよ?いつもは呼べない人も呼べるからって喜んでたわ」
アフロディテの言葉を受け、ホプキンスは他のバルコニー席へと意識を向ける。顔は見えないが、隣のバルコニーにも人がいるようだ。大人数で来ているらしい、会話する声が聞こえる。
「うおっ、すげー!広いし高いな!!!」
「うるせぇ!おとなしく座ってろ、落ちるぞ」
「はい、オペラグラス要るでしょ?彼の顔、よく見えないものね」
「あっ……有り難う御座います」
「……隣は随分と賑やかだな」
落ち着いて鑑賞出来ないとでも言いたげに、ホプキンスが肩を竦める。アフロディテは小さく笑うと、隣のバルコニーを庇うように言った。
「いいじゃない、舞台は楽しむのが一番だもの。勿論、他の人に迷惑かけちゃ駄目だけど」
「優しいな、女神様は」
「色々なお客様がいて良いのよ。お隣の団体さんもそうだし……子ども連れなんかも大歓迎よ。あ、ほら。あそことか」
アフロディテは柔らかな笑みを浮かべながら、細く白い指で真向かいのバルコニー席を指した。
向かいの席は、どうやら子連れのようだ。バルコニーの半分をカーテンで覆っており、そのカーテンにくるまるように少女が立っている。常人であれば見えないであろう距離だが、ホプキンスにはその少女の表情までよく見えた。カーテンの向こうの家族と話しているのだろうか?楽しそうに笑うと、少女はカーテンから身を離し、バルコニーの手摺に身を預けて観客席を見下ろした。
「ふふ……あの子、とっても楽しそうね」
「ああ、だな」
ホプキンスはしばらく少女を観察していたが、少女が手摺から身を乗り出しかけた瞬間、ゆらりと少女の背後の影が揺れた。
影は少女の腰に手を回し、まるで闇に引きずり込むかのようにカーテンの向こうへとその身を隠した。
「あらら、お父さんかしら?」
微笑ましそうにアフロディテが笑い、ホプキンスも小さく笑みを溢す。しかし、その笑みは唇の端を上げただけの形ばかりの笑みだ。鋭く光らせた目を隠そうともせず、ホプキンスは向かいのバルコニー席を睨む。
一瞬のことではあったが、あの影はホプキンスを睨んでいた。それも、強い殺意を持って。
「……アフロディテ。次のオリンポスの公演なんだが」
向かいのバルコニー席から視線を外し、ホプキンスは隣で笑うアフロディテに声を掛ける。
「え?次がどうかしたの?」
「演目なんだが、たまにはホラーやサスペンスなんてどうだ?そうだな……『切り裂きジャック』なんていいかもしれん」
「あら、いいアイディアね!最近は古典作品ばかりだったし、座長に提案してみるわ」
「ああ。楽しみにしている」
アフロディテに今度こそ優しく笑いかけ、ホプキンスは向かいのバルコニー席へ向けて小さく呟く。
「面白くなりそうだな?リッパー」
ホプキンスの声は、開演のブザーの中にかき消えた。


「レイちゃん、しゅららん!凄いよー!広くてきれーい!」
バルコニー席に足を踏み入れた瞬間、ロリポップは弾丸のように飛び出した。分厚いカーテンを抱えるように掴み、体全体を使って開く。半分だけ開いたカーテンの隙間には、高い高い天井と呑み込まれそうな観客席の波が広がっていた。
「ロリポップ、あまりはしゃぐと落ちますよ」
「大丈夫だよー」
まだ閉じたままのカーテンの端にくるまり無邪気に笑うロリポップに、阿修羅姫もつられて笑みを溢す。
「ロリポップ、随分と楽しそうね?」
「うん!だって、レイちゃんとしゅららんと一緒に来られたんだもんっ!あーあ、リオたんも来ればよかったのに」
「仕事なんですから、仕方ないでしょう」
「リオたん、いっつもタイミング悪いよね」
ロリポップは小さく肩を竦めると、カーテンから抜け出しバルコニーの手摺へと駆け寄った。
彼女の小さな背中を見詰めながら、阿修羅姫は静かに座席に腰を下ろした。傍らのブラッドレイは、まるで彫刻のように綺麗な姿勢で立っている。
「ブラッド、あんたも座ったら?」
「立っていようと座っていようと、私の自由でしょう」
「まぁ、そうだけど……ずっと横に立たれてると落ち着かないのよ」
「おや。貴女は普段から落ち着きがないように見えますが」
「一言多い!」
噛み付く阿修羅姫をものともせず、ブラッドレイは涼しい顔のままだ。
「レイちゃん、しゅららんからかっちゃ駄目だよ!それよりほら!たっくさん人がいるよ!」
眼下に広がる観客席を見下ろしたまま、ロリポップはブラッドレイを呼ぶ。
「凄いね、色んな人がいる!バルコニーもいっぱいだー……あ!」
驚いたような声を上げ、ロリポップの視線が正面のバルコニー席に釘付けになる。小さく手摺の上に身を乗り出し、興奮した様子だ。
「ねぇねぇ!あれ、あの人!女優のアフロディテじゃない!?」
「そうですか、良かったですね」
ブラッドレイは気のない返事をするが、ロリポップは慣れた様子だ。気にすることなく会話を続ける。
「すっごーい、綺麗!しゅららんとどっちが綺麗かなぁ?」
「さて、どちらでしょうね」
「隣の女の子も女優さんなのかな?ちょっと変わった格好だけど可愛いね!」
「はぁ」
「あ、もしかして色違いかな?うーんと……あっ分かった!メタグロスだ!」
「……っ!」
ロリポップが無邪気な声を上げた瞬間、ブラッドレイは反射的にその身を動かした。ロリポップの腰に手を回して掬い上げるように抱くと、するりとカーテンの奥へ身を隠す。その一瞬の間に、向かいのバルコニーに見えた人影。あれは間違いない、もう百年も経つが、一瞬たりとも忘れたことの無いあの悪夢のような出来事。あの悪夢の元凶が、目の前にいたのだ!
「……レイちゃん?」
「ちょっと、如何したのよブラッド!?」
突然のブラッドレイの行動に唖然とするロリポップと阿修羅姫。その訝しむ様な声に、ブラッドレイもすぐに我に返った。そっとロリポップを下ろすと、何時もと変わらぬ落ち着いた声で言う。
「ポップ。レディたるもの、人のことをじろじろ見てはいけませんよ?」
「うっ!ご、ごめんなさい……」
「さぁ、もうすぐ開演でしょう。静かに座って、舞台を鑑賞なさい」
「はぁーい!」
ロリポップは元気よく返事をすると、阿修羅姫の隣の席に腰を下ろした。阿修羅姫がロリポップの頭越しにブラッドレイを見るが、彼もまた何事も無かったかのように座席に着く。
「ブラッド……」
「修羅」
阿修羅姫が口を開くが、ブラッドレイは静かにその言葉を遮る。そっと唇に指をあて、小さな声で言った。
「始まりますよ。ラスティの舞台を観たかったのでしょう?」
「……そう、ね」
腑に落ちない様子だが、阿修羅姫は言葉を飲み込み視線を舞台へと向けた。開演のブザーと共に劇場内の明かりが落ち、周囲は闇に包まれていく。
「……」
ブラッドレイは半分閉じられたままのカーテンに手を掛けると、そっと捲り上げた。覗き見たホプキンスは、ブラッドレイ達には気付いていないのだろうか?舞台へと視線を注いでいる。
「見えていなければ、それでいい」
声に出さずにブラッドレイは呟き、半分のカーテンを閉じ直した。まるで、阿修羅姫達をホプキンスから隠すかの様に。


**********


上演後、退出する観客達を横目に見ながら、アフロディテとホプキンス、供のエスパーダの三人は楽屋へと向かう。一般客では入れない通路も、アフロディテには関係無いのだ。先陣を切って歩き、楽屋のドアを叩く。
「リオン、リオーン。入ってもいいかしら?」
ドアの前で呼び掛けると、楽屋の中から「どうぞー」という間延びした声が聞こえた。直後、大きくドアが開く。
「いらっしゃいませ、ロディ先生」
「お疲れ様、リオン。皆も、とてもいい舞台だったわ!」
出迎えたピグマリオンに一礼すると、アフロディテは楽屋内をぐるりと見回す。まだ夜公演があるからだろう、衣装もそのままの役者達は、皆興奮冷めやらぬ様子だ。その熱気を受け、アフロディテもにこにこと笑みを深くした。
アフロディテはホプキンスを伴い、楽屋へと入る。二人より遅れて入ったエスパーダがドアを閉めると、ピグマリオンは待ちかねたように口を開いた。
「早速ですがロディ、そちらの方が?」
「ええ、いつも話してるわよね。ホプキンスさんよ」
紹介され、ホプキンスは一歩前へ出た。姿形こそ可愛らしい少女だが、その圧倒的な存在感に楽屋中の視線が集まる。
「初めまして『ピグマリオン』。話はアフロディテから聞いている」
「初めまして、ホプキンス殿。本日の舞台、お楽しみ頂けましたか?」
ピグマリオンが穏やかな笑みを浮かべ、ホプキンスに問う。ホプキンスは小さく頷いたが、すぐに肩を竦めていった。
「舞台に関してはまぁ暇潰し程度にはなったが……これがお前の理想の『ガラテイア』か?神話のピグマリオンは理想の女性像としてガラテイアを作ったというが……この『ガラテイア』は、まだまだ完成には程遠いようだ」
「はは、手厳しいですね。ええ、はい。まだこれからですとも。次の公演では、更に成長したガラテイアをお見せしますよ」
「そうか。楽しみにしていよう」
「はい。またの御来場、お待ちしております」
褒め言葉には程遠いが、一応は認められたのだろう。ピグマリオンは嬉しそうに笑うと、アフロディテ達に椅子を勧める。
「さ、どうぞごゆっくり。まだ夜公演まで時間がありますし」
「そうね。少しお話させて貰おうかしら」
「俺、お茶を淹れてきますね」
「有難う、エスパ」
優雅な動作でアフロディテが椅子に腰かける。ホプキンスもそれに倣うと、楽屋内の緊張の糸が切れたらしい。続々と役者達がホプキンスの周りに集まってきた。
「ホプキンスさん、初めまして!私、コッペリアっていいます。こっちは弟のクロヴィス!」
「はじめましてー」
「初めまして、コッペリア。クロヴィス。お前達はピグマリオンの子どもだったな?アフロディテから聞いている」
順番に挨拶していく役者達の中、ふとホプキンスが一人の女優に目を留めた。
その女優――リオネルは、ホプキンスの視線を受け緊張した面持ちだ。その姿に薄く笑みを浮かべ、ホプキンスは言葉を投げ掛ける。
「お前はなかなか良かったな」
「えっ!!あ、有難う御座いま」
「美しい『剣術の型』だったよ。人斬り刀のギルガルド独特の、鋭く滑らかな身のこなしだ」
「え……あー……えっと」
ホプキンスの言葉に、リオネルは視線を宙に漂わせる。
「あの、ホプキンスさん。私は人斬り刀なんかではでは」
「何を言う。お前は立派な刀身を持っているだろう。まぁ、少々錆び付いているようだが」
「わー!わーっ!」
リオネルは慌てた様子で大声を出すと、ホプキンスの声をかき消した。その反応に、ホプキンスは不思議そうに眼を瞬かせる。
「如何した?何を慌てる必要がある。私は事実を述べただけだろう」
「そっ、そういう事は言わないでくださいさい!」
小声で言いながら、リオネルは視線を楽屋の端へと向ける。幸いにも、お茶を淹れているエスパーダには今の会話は聞こえていなかったようだ。彼に聞かれると、後々面倒な事になってしまう。
「もう、私は剣舞用の剣ですです!人斬りの剣なら、他に……」
そこまで言って、リオネルは何かを思い出したかのようにハッと目を見開いた。慌てて壁にかかった時計を確認し、大声を上げる。
「あー!わ、忘れてました!私、今日はお客様を呼んでるんですです!ご挨拶に行かないとと!」
「……随分と慌ただしい剣だな」
呆れたような声だが、特にホプキンスは気を悪くした様子は無い。ひらひらと右手を振ると、リオネルに言った。
「客が来ているのなら、早く行ったらどうだ?客を待たせるなど、礼儀がなっていないぞ」
「はっ、はいっ!すみませんホプキンスさんアフロディテさんっ!失礼しますす!」
ぺこりと頭を下げると、リオネルは楽屋を飛び出していった。
「うふふ、可愛いわねぇ」
「そうか?私はそうは思わんが」
「若いなぁって、そう思うのよね。ほら、私もうおばあちゃんだもの」
「……お前の様に美しい者には、年齢など関係無いだろう」
「あらやだ、ホプキンスさんったらお上手なんだから」
アフロディテとホプキンスが小さく笑い合っていると、また新たな役者達が挨拶の機会を伺って寄ってくる。ホプキンスはアフロディテに向かって小さく肩を竦めると、自身を取り巻く役者達に言い放った。
「さて、次は誰だ?このホプキンス、一度聞いた名は忘れないぞ」


「うあーん、どこですかかー!?」
きょろきょろと辺りを見回しながら、リオネルは劇場内を歩く。普段使っているガラテイアの劇場と違い、オリンポスの劇場は大きくて複雑な造りだ。ロリポップ達がいるであろう観客席へ向かうにも、つい道に迷ってしまう。
「うう……これなら、パルさんかロイさん達と一緒に出てくれば良かったですです」
トリミアンの嗅覚なら、きっと迷う事もないだろう。彼等もまた、今日の公演に人を招いていた。いつの間にか楽屋から姿が消えていたが、挨拶をしに行ったに違いない。
「えっと、多分こっちですねね!」
不安そうにリオネルが曲り角を右へ進むと、背後から低い声が聞こえた。
「何処へ行くつもりですか、ラスティ」
「うわわっ!」
驚いて振り向けば、そこには黒い影を纏った男――ブラッドレイの姿があった。音も無く背後に立っていた彼に、リオネルは大声で問う。
「リッパー!?な、なんで貴方がここに」
「貴女があまりにも遅いので、様子を見に行くようにとロリポップに言われたんですよ。……それに、私も少々貴女に訊きたいことがあったのでね」
「……訊きたい事、ですかか?」
「ええ。ラスティ、貴女……色違いのメタグロスを知っていますか?」
回りくどい言い方は不要だろう。ブラッドレイが単刀直入に問う。
リオネルは一瞬目を丸くしたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「メタグ……ああ、もしかしてホプキンスさんですかか?先程、アフロディテさんと一緒に楽屋にいらっしゃいましたた!」
「そうですか。そのアフロディテとホプキンスは、親しい仲なのでしょうか」
「百年の付き合いの親友だって聞いてますます」
「……成程」
リオネルの言葉を受け、ブラッドレイは考える。
アフロディテと親しいという事は、彼女の動きをマークしていれば遠からずホプキンスと対峙する機会があるだろう。その時に、あの悪夢に終止符を打つことができるだろうか……?
黙り込むブラッドレイに、リオネルは微かに不安を滲ませた声で問い掛ける。
「えっと……もしかしてリッパー、ホプキンスさんとお知り合いなんですかか?まさか彼……彼女?彼ですかねね?を斬る気じゃ」
「……貴女にそこまで教える義理はありません」
「なっ!?人に訊いておいて、何ですかかそれ!?」
「貴女には関係ありません。それより、急ぎますよ。そろそろロリポップが寝る時間です」
気色ばむリオネルを軽くあしらい、ブラッドレイは廊下を歩き出す。
歩幅は広いが、追い付けない程ではない。リオネルは慌ててブラッドレイの後を追い、その背中に声を掛ける。
「リッパー」
「何です?」
「あの……何か、あったんですかか?私、貴方がそんな顔してるの初めて見ましたた……」
「……忘れなさい。昔に教えませんでしたか?出過ぎた真似をすると、寿命を縮めますよ」
「……」
ぐっと言葉を飲み込み、リオネルは静かにブラッドレイの後を付いて歩く。しばらく無言が続いたが、不意にブラッドレイが口を開いた。
「一つだけ、忠告しておきます」
「はい?」
「あのアフロディテという女優。悪い事は言いません、早急にホプキンスとの交流をおやめなさい。一緒にいたところで、碌な事がありませんよ」
「な……」
「忠告は以上です。あと、これは先程の舞台への感想ですが」
この話題を終えたかったのだろうか。身に纏う空気を変え、ブラッドレイは軽くリオネルを振り返って言う。
「貴女、やはり戦闘用ですよ。先程の舞台、あれは完全に『剣術の型』でした。というか、そもそも本当に舞う気があるんですか?」
「なっ!?失礼なこと言わないでくださいさい!」
「一体、修羅から何を学んだんですかねぇ……剣術も舞も中途半端で如何するんですか、ラスティ」
「余計なお世話ですです!うわーん、修羅さぁーん!」
涙目でブラッドレイを追い抜き、リオネルはロリポップと阿修羅姫の待つ観客席へと走っていく。
その後姿に小さく溜息を吐くと、ブラッドレイは静かに右手を掲げた。煌めく刀身と化した右手には、表情の消えた顔が映りこんでいる。
「次に会う時こそ……ただでは済まないと思いなさい、ホプキンス」
刃に映った傷跡が、ぐにゃりと歪んだ。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

sidetitleプロフィールsidetitle

橋谷あも

Author:橋谷あも
性別:女
誕生日:3月8日

やる気が出ると速いのに、やる気が出るのが遅い。
バシャーモ大好き。最近はトリミアンが熱い。

連絡は
amenotori338☆yahoo.co.jp(☆→@)
にどうぞ。

最近はツイッター中心に活動しています。
twitter


■ともだちコード
・ダイヤ
4124 3838 4049
・SS
5027 3664 6663

■最終更新
擬人化設定→5/3

■バトンメモ
今はありません




■参加・応援
ウチの子レンタルチュウ! ウチの子と共演チュウ! ラフ許可チュウ ハレンチュ!!
モウソウ上等! 脱衣キャンペーン 続・娘さんを僕にください!企画 PKG-Search
PokemonSearch 教会企画
友達・恋人募集中!

sidetitleリンクsidetitle
sidetitleカテゴリsidetitle
sidetitle最新記事sidetitle
sidetitle最新コメントsidetitle
sidetitle検索フォームsidetitle