もはやログ庫

九十九 ノディエ
枝垂 ハーメルン
政兼 ノルン
ヒューバータ

九十九(ムクホーク♀)、ノディエ(フローゼル♂)、枝垂(ルンパッパ♀)、ハーメルン(ブロスター♂)、政兼(タブンネ♂)、ノルン(ハピナス)、ヒューバータ(メガラグラージ♂)
九十九は普通に描いただけ、ノディエは設定画描き直そうと思って…。他の子は新顔です。
枝垂は傘の中だけ雨が降ってるタイプの濡れおなご。雨が降ると傘の中が晴れます。
ハーメルンはシュヴァンダの弟。ファッションデザイナーのたまごで、兄より背が高い(重要)
政兼とノルンは、傭兵団のお医者さん。政兼は「まさかね」が口癖で、ノルンは包容力溢れる女医さん。
ヒューバータはお嬢様以外に塩対応な執事(お嬢様はよそのお子さんです)


追記に文章。
くろがみさんのお子さん方をお借りしています。大乱闘花街ブラザーズ!
勢いと調子に乗って沢山お子さんお借りしてますが、色々違うぞって箇所あったら容赦なくぶん殴ってください…
そして毎度のことですが、誤字脱字とかあると思うので見付けたらそっと教えてください……

保存転載等はくろがみさんのみご自由にどうぞ。
素敵なお子さんをお貸し頂き、有難う御座いました!




「暇じゃのう~」
「暇だねぇ~」
ぬるくなった茶を啜り、山茶花と筑紫はどちらともなく呟いた。
花街最大の妓楼、鱗月屋。夜の帳が下りれば鮮やかに活気付くそこも、昼間ともなれば案外静かなものである。最上階にある筑紫の私室は日差しを遮るものも無く、ぽかぽかと暖かな光が降り注いでいる。
「こうも何も無いと、いっそ清々しいくらいじゃの。のう、筑紫よ?」
「そうだねぇ。今日はだ~れも何もしてないみたい。平和だなぁ」
本日は珍しいことに、喧嘩のひとつも起きていないらしい。筑紫は窓から街を見下ろすが、そこには変わらぬ日常を送る人々がいるだけだ。
筑紫は退屈そうに狐面の鼻先を指でコンコンと叩くと、窓から視線を戻し山茶花に訊ねる。
「うちはこの通りだけど、山茶花ちゃんの所はどうなの?やっぱり暇しちゃってる?」
「そうじゃな……祭も終わったし、ここ最近は事件らしい事件も無いからの。精々、われがこうして遊びに出る度に丹波に追われとるくらいじゃ」
「丹波くんかぁ。僕ちゃんと見た事ないけど、彼って戦うとすっごく強いんだよね?門番の子達が言ってたよ~」
「まぁ、仮にも猛禽最強と呼ばれるだけのことはあるわな。一度目を付けられたら、逃げるだけでも一苦労じゃて」
山茶花は大げさに溜息をつくと、湯呑に残っていた茶を飲み干した。空になった湯呑を盆に戻すと、すかさず傍に控えていた草薙が新しい茶を注ぐ。
穏やかな空気の中、ほのかに漂う茶の香りを吸い込み、筑紫がぽつりと呟いた。
「……僕のとこの門番達と山茶花ちゃんのとこの忍の子達、どっちが強いんだろ」
「なんじゃ、また手合せでもさせるか?確か、前はぬしの所の道場でやり合ったと聞いておるが……次はこちらが場を提供する番かの」
山茶花が言うと、筑紫は小さく首を傾げる。
「う~ん、それもいいんだけど……。実はね、ちょっとお願いがあって」
「お願い?」
「うん。あのね、山茶花ちゃん」
手にしていた湯呑を置き、筑紫は拝むように手を合わせる。
「一日だけでいいんだけど、ちょっと忍の子達を貸してくれない?」
「……とりあえず、理由くらいは聞こうかの。のう、丹波よ」
「だな」
山茶花が名を呼ぶと、カタリと音を立てて襖が開いた。襖の向こうにはいつの間に来ていたのか、忍頭の丹波が立っている。
驚いた様子もなく、山茶花は丹波へと視線をやった。形の良い唇の端が小さく、しかし愉快そうに持ち上がる。
「おぬし、随分と速く追い付いてきたではないか。ここまで来るのに止められなかったのかえ?下には門番長がおったはずじゃがの」
「生憎、その門番長殿が通してくれたもんでな。楽な道のりだったぞ」
「そうかそうか」
くつくつと笑う山茶花に、筑紫は小さく肩を竦めた。
「いつも思うけど、山茶花ちゃんって結構鬼ごっこ楽しんでるよね。……まぁいいや、丹波くんも座って座って!」
「ほれ、茶もあるぞ」
「ったく、年寄りが集まると騒がしいこった」
文句を言いつつ丹波が腰を下ろすと、筑紫は改めて山茶花に向き直った。
「えーと、さっきの続きだけど」
「忍を一日貸せというのだろう?なんじゃ、何かあるのか?」
「うん。あのね、うちの門番って、攻め込むことじゃなくて外敵から街を護ることが役目じゃない。もっと言うと高雄太夫を護ることなんだけど」
「そうじゃな」
「護るための力や技術を鍛えたいのは山々なんだけど、残念な事に最近の侵入者は骨無しばっかでね~。全っ然、それはもう全然、準備運動にもなりゃしないんだよ」
深く永い溜息と共に、筑紫が吐き出す様に言う。
「門番が優秀なのは嬉しい話だけどさ、このままじゃ腕が鈍っちゃいそうで。……というわけで、忍の子達に門番の訓練を手伝ってほしいんだ。実戦訓練ってやつだね、ちょちょっとこの街に攻め込んできてくれない?」
「おぬし……随分なことを考えるのう」
「勿論、本気で街を壊されちゃ困るけどね~」
仮面で表情は窺えないが、きっと笑顔を浮かべているのだろう。楽しそうな声色の筑紫に、山茶花は小さく肩を竦めた。
「それで、われに何か得することはあるのかの?」
「そうだねぇ……。ねぇ山茶花ちゃん、この部屋からの眺めってどう思う?」
「……成程」
言われ、山茶花は窓の外に目をやった。花街一高い建物である鱗月屋からは、眼下に広がる街を一望できる。
山茶花はにやりと笑うと、笑いを堪えたような声で筑紫に言った。
「最高じゃな。隅々までよく見える」
「でしょ?ここからなら、誰が何をしててもよく分かるよ」
「……念の為聞くが、茶菓子のひとつやふたつ出るんじゃろうな?」
「勿論。何ならお酒だって出しちゃう!」
「……よし、乗った!」
「わ~い!」
山茶花が大きく頷くと、筑紫は両手を上げて喜んだ。
門番衆と忍衆の、町全体を使った模擬戦。それを高みの見物となれば……刺激の少ない生活を送る筑紫と山茶花にとってはいい見世物だ。
「丹波、忍衆に伝えておいてくれるかの?今度は門番衆相手に運動会じゃとな!」
趣味と実益を兼ねた思い付きに、山茶花の声が跳ねるように響く。指示を受けた丹波は、呆れたように眉間に皺を寄せた。
「それは別に構わんがな。俺等が出払ったら、警備の方はどうするつもりだ?」
「む、それもそうじゃの」
流石に自らの街を放置はできないと悩む山茶花に、筑紫は小さく手を上げる。
「はいはい。提案!」
「ん、言ってみい筑紫」
「忍の子の代わりに、草薙ちゃん貸してあげる!」
「え!?」
突然名を出され、今まで静かに控えていた草薙が裏返った声を上げた。
草薙は畳に手を突くと、ぐいと体を前に乗り出して叫ぶ。
「筑紫様、何を!?」
「だって、山茶花ちゃんが折角作った街だよ?何かあったら嫌じゃない」
「そ、それはそうですが……」
さも当然の様に言う筑紫に、草薙は面食らった様子だ。どうしたものか迷うように草薙が視線を泳がせると、ばちりと丹波と目が合う。
丹波はゆっくりと目線を天井に向け、独り言の様に呟いた。
「そういや、忍じゃないが俺の知り合いに腕のいい女侍がいてなぁ」
「は……」
「剣の大鬼、伝説の人斬り。弘法筆を選ばずとは言うがな、そいつが神剣なんざ使ってみろ。一体どんなことになるか……なぁ?」
丹波がそこまで言い草薙を見ると、彼女の目はきらきらと期待に満ちた輝きを放っている。一振りの刀として、この話に興味を持たない筈がない。
「どうだ?なんならこの侍、呼んでおいてやってもいいぞ」
「っ……!筑紫様!神剣草薙、必ずや山茶花様の街を守り抜いてみせましょう!」
「はい決まり~」
あっさりと貸し出しを承諾した草薙に、筑紫と山茶花はグッと親指を立て合った。


**********


「ってなわけで、合同訓練が決まった」
門番衆との合同訓練が決定したことを通達するため、丹波は部下達を道場に集めていた。
筑紫の急な思い付きだが、決して悪い話ではない。丹波の前に並ぶ忍達も、戸惑いつつもどこか楽しそうだ。
「それはまた、随分と急な話ですね頭領」
鬼灯が素直にそう言うと、丹波は意地の悪い笑みを浮かべる。
「ま、断る理由も無いからいいだろ。何より、お偉いさんふたりが乗り気だからな。断った所で無視されて終わりだ」
「それもそうですね」
「街全体を使うからな、細かい決まりはあるが……」
言いながら、丹波は懐から折り畳まれた紙と小さな巾着袋を取り出し、鬼灯に投げて寄越した。受け取った鬼灯が巾着袋を開けると、中には長い紐の付いた木札が五枚入っている。
「札?」
「何だコレ。名札か?」
天海が横から手を伸ばし、巾着袋から木札を一枚取り出す。木札には「藍染」と達筆で記されていた。
「ほれ藍染、お前のっぽいぞ」
「ん」
天海が藍染に木札を渡すと、藍染はくるくると木札を弄り始めた。掌にすっぽりと収まる大きさのそれは、少し力を籠めれば砕けてしまいそうだ。
「藍染、壊すなよ。当日はそれを首から下げて臨め」
「これを?」
「詳しいことはその紙に書いてある。俺は不参加だからな、鬼灯、ここからはお前が指揮を取れ」
「頭領は参加なさらないのですか?」
「俺と門守は観客席で護衛だとよ。それに、俺達が入ったらお前等の訓練にならないだろ」
少しだけ退屈そうに言うと、丹波は話は終わりとばかりに道場を出て行った。その後姿が見えなくなると、忍達は鬼灯が手にする紙に視線を落とす。
「さて……とりあえず読んでみるか」
鬼灯が紙を開くと、どうやら二枚綴りになっているようだ。一枚目は街の見取り図、二枚目は今回の合同訓練に関する注意事項がびっしりと書かれている。
「随分と注意が多いなー。鬼灯、読んでくれ」
「ああ」
氷雨に促され、鬼灯が注意事項を読み上げていく。
「まず、この木札だな。流石に死人が出たり集団入院は避けたいから、今回は木札の取り合いで勝敗を決める……ってよ」
「へぇ」
「こいつを首に下げといて、破壊または奪取されたら脱落。脱落者は賭博場にて待機、以降の戦闘には加われないそうだ」
「成程な。玉兎、藍染、自分で壊したりすんじゃねぇぞ?」
慎重に木札を懐にしまい、天海が言う。その言葉に、玉兎は小さく頬を膨らませた。
「そ、そんなことしません!」
「いやぁ、お前のことだしうっかり握りしめてそのまま……とかあるかもしれねぇだろ。なんたって林檎三個分だ」
「うぅ、その話はよしてください……!」
「おーい、次読むぞー」
へそを曲げた玉兎を宥めつつ、氷雨が間に入る。コホンと咳払いし、鬼灯が続きを読み始めた。
「忍と門番、どちらかが相手側の木札を全て破壊すればその時点で勝者が決定……だが、俺達はもうひとつ方法がある」
「え?」
「高雄太夫の身柄を確保すること。門番は高雄太夫を護るのが役目だろ?だから、たとえ木札を全部破壊しなくとも、高雄太夫さえ押さえれば門番は任務失敗。俺達の勝利だ」
「成程なー。実際の状況に近い条件ってことかー」
「高雄太夫は鱗月屋の最上階にいる。俺達はここを目指して、それを門番が邪魔してくる流れになるだろうな」
鬼灯は指先で街の見取り図を指した。大門から鱗月屋へは、大通りを真っ直ぐ進むだけ。道のり自体は楽なものだ。
「一本道だもんな。問題は、門番がどう出てくるかだ。あいつらの方が俺達より人数も多いんだよなぁ」
言いながら、天海は指折り数える。
「下手に相手するより、高雄太夫を捕まえた方がいいんじゃねぇか?いちいち戦ってたら押し負けるかもしれねぇぞ」
「だな。お互い手の内は熟知してるんだ、向こうも対策は練ってるだろうよ」
「こちらもしっかり策を練っていかないといけませんね……」
見取り図を囲んで意見を出し合っていると、ぽつりと藍染が呟いた。
「ねえ。門番って何ができるの?」
「え?」
「戦ったことない」
藍染の言葉に、鬼灯達は顔を見合わせる。そういえば、藍染はつい最近忍衆に正式加入したばかりだ。門番との手合せにもまだ参加したことが無い。
「そういや、挨拶した程度でろくに戦ってないっけな」
「うん」
「と、いうことは……向こうも藍染の実力を知らないってことかー」
「成程。なら、藍染を中心に陣形を組んでみるか。門番への牽制になるだろ。よし、作戦決めるぞ!」
方向性が決まり、忍達は作戦会議を進めていくのだった。


**********


「え~。それでは只今より、門番衆と忍衆による大模擬戦を行います!一般の方々は屋内に避難してください!危険ですので、外出はなさらないようご注意願います!」
大規模な戦闘開始の知らせが花街中に響き渡り、外を出歩いていた人々が一斉に屋内へと消えていく。
まるで人の気配が感じられなくなった街は、よくよく見ると重厚な造りをしており、要塞としての機能を持つことを改めて示している。
「さて、作戦は覚えてるな?」
忍衆は、街の外からの出発だ。五人は待機場所に集まり、最終確認を行う。
「開始の合図と同時に門が閉まるから、玉兎と俺が門をこじ開けて藍染を先に行かせる。氷雨は門を避けて、氷で階段を作って塀を越えろ。天海も氷雨と一緒に門を迂回、藍染の補佐に入ってくれ」
「了解」
鬼灯の指示に頷き、各々役割を確認していく。
「門にはいつも通り不入と不出のふたりがいるだろうが、塀の上はどうか分からないからな。門番は炎タイプが多いし、気を付けろよ」
「大丈夫だ、鬼神を舐めるなよなー?」
「ちゃっちゃと越えてやるよ」
にやりと笑みを浮かべる氷雨と天海に、鬼灯も唇の端を吊り上げて返事に代える。
「玉兎、藍染、準備はいいな?」
「は、はいっ!いつでも行けます!」
「頑張る」
「よし。総員、配置に着け!」
鬼灯の合図で、忍達はそれぞれ構えを取った。開始時刻まであと三、二、一――。
「……行くぞ!」
「応!!!!」


街の唯一の出入り口である大門は、大きさの割に開閉速度は速い。鬼灯達が辿り着く頃には、既に門は閉まり始めていた。
「おやおや、本当にこのお三方だ。流石は狂骨さん、正確な読みですねぇ」
「ということは、他のふたりは本気で塀を越える気なんでしょうね」
大門を挟んで左右に立つのは、不入と不出。普段から門前の警備を担当している二人組だ。
「玉兎、行くぞ!」
「はい!」
作戦に沿って、鬼灯と玉兎は門に向かって駆け出した。助走を付け、一気に門を蹴り開けようと玉兎が足に力を籠める。
「怪我をしたくなければ……退いてくださいっ!」
「させるかっ!」
玉兎が地面を蹴った瞬間、不出が叫んだ。声と同時に、門の庇から大量の手裏剣が降り注ぐ。
あんな仕掛けは無かった筈だ。まさか、一晩で仕込んだのだろうか?予想外の鋼の雨に、玉兎の勢いが落ちる。
「きゃあっ!」
どうにか急所は守っているものの、これでは進めない。足を止めてしまった玉兎を、鬼灯が叱咤する。
「玉兎落ち着け、こんな仕掛けそう簡単に用意できるわけないだろ!幻影だ幻影!」
「え!?」
言われ、玉兎は目を凝らす。確かに、よく見て見れば庇には何の仕掛けも無い。これほどの質量を持った幻影を展開するとは、いつの間にか不出の力も増していたという事だろうか。
幻影を見破られたものの、門番達の表情は涼しいものだ。不入は小さく微笑み、指先でバツを作る。
「あーあ、即バレじゃないですか不出くん。まだまだ修行が足りません」
「すみません、先輩」
「でもまぁ、時間稼ぎくらいにはなりましたよ」
不入がそっと手を上げると、その指先から火の粉が飛んだ。火の粉は鬼灯達の足元に飛び散ると、次々と枯れ枝や落ち葉に引火していく。
燃え上がる炎はみるみるうちに大きくなり、頭の高さを優に超えた。まるで炎でできた壁の様に、忍達の行く手を塞いでしまう。
「へぇ、なかなかやるじゃないか。この隙に門を閉めようってか?」
「流石は鬼灯さん、正解です」
炎の向こうでは、ぎいぎいと音を立てて門が閉まっていく。完全に閉じてしまえば、侵入は困難を極めるだろう。
「ど、どうしましょう鬼灯さん!?」
突っ切るには、炎の威力があまりにも大きすぎる。うろたえる玉兎を、鬼灯は手で制した。
「落ち着け。……藍染!」
「うん」
名を呼ばれ、後に待機していた藍染が前に進み出た。
「少しばかり予定が狂ったが……ま、概ね一緒だ。藍染、まっすぐ行けばいいからな!」
「分かってる」
「……?何をなさるおつもりで?」
不入が訝しげに目を細めるが、藍染はそれには答えず手にした大鎌を高く持ち上げた。勢いよく柄を地面に叩き付けると、地面が揺れる。
「火、邪魔だから消すよ」
藍染の言葉と同時に、炎の壁の真下の地面が細く裂けた。瞬間、まるで打ち上げ花火の様に裂けた地面の隙間から岩が飛び出していく。
「なっ……!?」
「ちょ、嘘でしょう!?」
岩に散らされ、炎の壁はちらちらと燃えカスを残し消えていく。障害物が無くなると、藍染はぐっと地面を踏みこみ駆け出した。
「っ!不出くん!」
「はい!」
「させるか!」
藍染を止めようと立ちはだかる門番に、鬼灯が斬りかかる。接近戦であれば、鬼灯の方が断然有利だ。
「玉兎!」
「了解!」
玉兎は鬼灯の背後から飛び上がり、当初の予定通り門を蹴破る。閉じかけていた門は大きく口を開き、鱗月屋までの一本道が眼前に広がった。
「行け、藍染!」
「待て!」
走り抜けていく藍染を追おうと不出が踵を返すが、行く手を遮るように足元に手裏剣が刺さる。
「おい、お前の相手は俺達だろ?余所見するなよ」
不敵な笑みを浮かべる鬼灯と、臨戦態勢の玉兎。このふたりを不入だけで足止めするのは難しいだろう。どちらを優先するか迷う不出に、不入が叫ぶ。
「不出くん、いいから!追いなさい!」
「へっ……!?」
不入は大きく足を振り上げると、不出の背中を思いっきり蹴り上げた。蹴られた勢いで、不出の体が大通りの方向へと転がっていく。
「おまっ、仮にも後輩だろ!?」
「後輩ですからね、手加減はしてます。いくら骨折癖のついた不出くんでも、これくらいなら大丈夫でしょう」
不入は笑うと、細く息を吐いた。まるで空気に引火したかのように、辺りに炎が燃え盛り始める。
その炎は壁となり、鬼灯達と不出の間を完全に塞いだ。
「さ、もう少しここで遊んで行って頂きますよ」
炎の壁を背後に、不入が笑う。
「先輩!」
「まだいたんですか?早く行きなさい」
不出は壁越しに叫ぶが、不入に言われては逆らうわけにもいかない。後ろ髪を引かれつつ、藍染の後を追いかけた。
その足音を聞き届けると、不入はゆっくりと鬼灯達に向き直る。
「さぁて……鬼灯さん、玉兎さん。どうします?変な話、これは訓練ですからね。無理に戦わなくたっていいんですけど……」
「おいおい、まさか本気で言ってないよな?」
「いえいえ。おとなしく木札を差し出してくれれば、後はゆっくり高みの見物……って言いたかったんですけどね!?」
笑いを含んでいた不入の声に、焦りの色が浮かんだ。
ふっと上空を見上げる不入に、鬼灯と玉兎もその視線の先を追う。見れば、塀の上から降ってくる人影があった。
「姉さん!」
「退け、不入!」
塀から飛び降りてきたのは、門番の籠女だ。
籠女は地面に立ち並ぶ三人を一瞬で見分けると、鬼灯の傍に着地する。
「おっと!」
鬼灯は間一髪で避け、どうにか衝突は免れたものの、籠女はすぐさま鬼灯の腕を掴んだ。ぎろりと鬼灯を睨み上げ、籠女が言う。
「お前、面を貸せ!」
「は?」
籠女はぐっと腕に力を籠めると、鬼灯を背後に突き飛ばした。瞬間、鬼灯を取り囲むように中空から巨大なつららが大量に降り注ぐ。
「っ!」
地面に突き刺さったつららは、まるで檻の様に鬼灯を閉じ込めてしまった。身動きを封じられ、鬼灯は塀の上――氷雨を睨む。
「おい、何するんだ!」
「あ、悪い悪い。いや、塀を登ったら籠女がいてなー。天海は先に行かせてあたしが相手してたんだけど……なかなか逃げ足速くてさ」
氷雨は悪びれた風も無く、ひょいと塀から飛び降りた。鬼灯を囲むつららの一本に着地すると、ざっと場を見回し現状を把握する。
「成程なー。玉兎、先に行け。この姉弟はあたし達で相手する」
「え、でも……」
言われ、玉兎は戸惑うように炎の壁を見上げた。勢いは依然として強く、とてもじゃないが通り抜けられそうにない。
「んー、なら、これでどうだ?」
氷雨が炎に壁に向かって手をかざすと、すぅ、と周囲の空気が冷えていく。氷雨を中心に冷気の渦が生まれ、その渦は炎の壁もろとも巻き上がり、消えた。
「ほら、早く」
「あ、有難う御座います!」
壁の向こうにはもう藍染どころか不出の姿も見えないが、どうせ一本道だ。全速力で走ればすぐに追い付くだろう。玉兎は氷雨に礼を言うと、一目散に大通りを駆けて行った。
「あ、どうしましょう姉さん。玉兎さんが」
「放っておけ。どうせこの先には……な。それより今はこっちだ」
不入と籠女は並び立ち、眼前を見据える。
氷雨はつららから飛び降りると、ひょいと鬼灯から距離を取った。つららの檻に囲まれた鬼灯は、長く深い溜息を着く。
「ったく……思った以上に時間食ったぜ。こりゃ、悠長に様子見なんかしてられねぇな」
「お、出るか?竜の舞」
「うわ、最悪じゃないですか」
「おい、舞うなよ」
「任せろ、舞ってやる」
鬼灯は刀を抜くと、つららを砕くように薙いだ。そしてそのまま、ゆったりとした動作で舞い始める。
「さっさとお前等を倒して、あとはゆっくり進ませてもらうぞ」
鬼灯に睨まれ、不入と籠女は仮面に覆われた顔を苦々しく歪めた。


「破っ!」
「あらあらぁ。残念、外れよぉ」
玉兎の渾身の蹴りを、まるで煙の様にかわして水貴が笑う。
大通りを進んだ先、地図上では街の中央辺りだろうか。行く手を塞ぐ門番は、幽霊の水貴。本来ならば牢獄の監守を務めている彼女も、今回の訓練には参加していたらしい。
「天海くんと藍染ちゃんには逃げられちゃったけど……私の役目はそこじゃないもの。あのふたりは通してあげる。でも、せめて貴女にはここで退場してもらおうかしら?」
「役目……ですか?」
悠然と微笑む水貴に反し、玉兎の表情は険しさを増す。
玉兎にとって、ゴーストタイプである水貴は相性が悪い相手だ。本来ならば天海が相手をするのが一番だが……おかしなことに、水貴は先に通ったであろう藍染と天海のことは見逃しているようなのだ。勿論、その後を追う不出のことも。
「私のことは通してくれないんですね」
「ええ、だーめ。私と遊びましょ?」
言うが早いか、水貴の姿が掻き消えた。
「っ!?どこに……」
「ここよぉ」
一瞬で玉兎の背後に現れると、水貴は水流を巻き起こした。玉兎を閉じ込めるように、水の柱が立つ。
「ぐっ……!」
水柱に閉じ込められ、玉兎は溺れまいと必死にもがく。衣服が水を吸ってしまい、体が重い。
「う、んぐ……!」
「あ、殺しちゃ駄目だったわね。ごめんなさいね」
水貴はそっと玉兎に手を伸ばすと、首にかかる木札を掴んだ。水流に囚われた玉兎には、抵抗する術はない。
「はい、おしまい」
ぶちりと紐を引きちぎり、水貴は玉兎の木札を奪い取った。同時に水柱は消え、解放された玉兎は大きく息をする。
「は、はぁっ……!はぁっ……!」
「大丈夫?」
「は、い……でも、負けちゃいました」
「よしよし。大丈夫よ、玉兎ちゃん頑張ったもの。あとは他の子に任せて、ゆっくり休んでらっしゃいな」
肩を落とす玉兎を慰め、水貴は優しく笑う。こういうところは、母性溢れるいい幽霊なのだ。
脱落者の待機場である賭博場へ向かう玉兎を見送ると、水貴は大門の方向を見据える。狂骨の読みが正しければ、そろそろ鬼灯達が追い付いてくる頃だ。
「あんまり危ないことはしたくないんだけどね」
少しだけ困った様に言いながら、水貴は両手を前に突き出した。掌に水が渦巻き、まるで砲台の様に大通りの向こうへ高圧水流を発射する。
何発か水流を打ち込んでいると、やがて水貴の視界にきらりと光るものが見えた。目を凝らして見ると、どうやら水貴の放った水が凍りつき、反射しているらしい。
「……うふふ、狂ちゃんの言った通りね。ちゃんと避けるのよ?」
楽しそうに笑い、水貴は攻撃をより激しいものへと変えていく。放たれた水は端々から凍り付いて巨大な柱となり、地面も民家の屋根も、次々と氷に覆われていく。
一通り辺りを氷漬けにしていると、やがて、大通りの向こうから三人の人影が近付いてきた。
「かーごーめーちゃーん!こっちこっちー!」
「水貴!」
水貴の姿を捉え、籠女が顔を上げた。籠女の背後には、鬼灯と氷雨の姿がある。
「籠女ちゃん大丈夫?水、当たってない?あら、不入くんは?」
「当たってない。不入は負けた!」
短く言うと、籠女はクナイを取り出し氷雨へと放った。炎を纏ったそれを氷雨は軽く避け、籠女に向かって言う。
「そんな速度であたしの氷結結界から逃げられると思うなよ。いくら炎タイプといえど、こんな状況じゃ戦り難いだろ」
「まったくだ、随分と調子に乗って凍らせてくれたな?」
「おかげで俺も走り難いんだけどな」
時折氷を砕きながら、鬼灯が呟く。氷を苦手とする竜にとって、この氷漬けの街は居心地が悪いのだろう。
籠女は水貴の隣まで走ると、足を止めた。それに合わせ、鬼灯と氷雨も立ち止まる。
「鬼灯くん、氷雨ちゃん、ここまで来るの大変だったでしょ?特に氷雨ちゃんは、さっきから私の水流を凍らせっぱなしだったもの。そろそろ休憩してもいいのよ?」
「休憩って、要するに退場しろってことだろー?残念だったな、そのつもりは無いぞ」
優しい声で水貴が言うが、氷雨の返答は氷のように冷たい。
「そうなの、残念だわ」
小さく溜息を吐き、水貴はふわりと宙に浮き上がった。幽霊であるが故に重力に囚われない彼女は、易々と屋根の高さまで登っていく。
「それじゃ、休ませてあげる」
にこりと笑い、水貴は水流を放った。
「氷雨!」
「任せろ!」
氷雨は一歩前に出ると、水貴の放った水流を正面から受け止めた。氷雨が触れた箇所からみるみるうちに水流が凍っていき、瞬く間に水貴へと続く氷の架け橋となる。
「ありがとな、氷雨」
軽く手を上げると、鬼灯がひらりと氷の架け橋に飛び乗った。一直線に駆け上がり、水貴の正面へと躍り出る。
「休むのはそっちだ、幽霊さんよ」
刀を振り上げ、鬼灯は水貴の首に下がる木札を狙った。その瞬間、小さな声が耳に届く。
「うふふ……」
「……!?」
水貴は目を細め、愉快そうに笑っている。鬼灯は違和感を覚えたが、振り下ろした刀はもう止まらない。
切っ先は木札を砕き、水貴は脱落した。ゆらゆらと地に落ちていく水貴を氷の上から見下ろし、鬼灯は顔を歪める。
「今、何かされたか……?」
ひとまず氷の架け橋から降りようと、鬼灯が身を翻した瞬間。
「かかったな」
「っ!?」
足元の氷が砕け、鬼灯の体が宙に投げ出された。着地しようと地面に視線をやると、先程水流を凍らせたときの飛沫だろうか?まるで地面から生えているかのように、尖った氷があちこちに見える。
「鬼灯!」
氷雨が手を伸ばしてどうにか鬼灯を受け止めたが、流石に無事ではいられない。落下した衝撃と、飛び散る氷に当てられ、鬼灯の表情が歪む。
「やけに水浸しにしてくるとは思ったが……最初からこれが狙いか、狂骨!」
「まぁな」
鬼灯と氷雨が視線を上げると、いつの間にか籠女の隣には狂骨が立っていた。
門番衆一の策士であり、竜である鬼灯とは唯一相性のいい男だ。おそらく、ここで完全に鬼灯を止めるつもりなのだろう。
狂骨はチャクラムをぐるぐると振り回しながら、鬼灯達を見下ろす。
「忍衆の二番手っつっても、これだけ不利な状況だとなぁ。どうする?降参したっていいんだぜ」
「は、揃いも揃って似たようなこと言いやがって。降参なんざするわけねぇだろ」
変わらぬ不敵な笑みを浮かべ、鬼灯は刀に手を伸ばす――が、何故か刀を抜くことが出来ない。柄に手をかけるも、握ろうとすると指が凍り付いたように動かなくなってしまうのだ。
「なんっ……!?」
「効くだろ?お袋の呪われボディ」
「おいおい、嘘だろ……?そこまで計算済みかよ!」
先程の水貴の笑いは、この事を予想していたのだろう。呪われてしまった以上、しばらくは鬼灯は刀を使えない。刀が鬼灯の全てではないが、随分と動きを制限されてしまった。
鬼灯を庇うように、氷雨が前に出る。
「仕方ないな、あたしが時間を稼ぐ。その間にその呪い、どうにかして解いておくんだな」
「悪いな、氷雨」
「おい、お前の相手は私だぞ?」
氷雨の前に立ち塞がる様に、籠女が前に出る。
しばしの間睨み合っていたが、先に動いたのは氷雨の方だった。
「そらっ!」
周囲に転がる氷を一瞬で集め、再形成する。巨大な刃となった氷の塊は、押し潰す様に籠女に襲い掛かった。
「……甘いな」
籠女はクナイを握ると、氷の塊に向かって突き刺した。キィンと高い音が響き、氷は一瞬で水に、その水もまた水蒸気となって消えていった。
籠女の火力では、ここまでの芸当できるはずがない。予想外の出来事に、氷雨が問う。
「おいおい……嘘だろー?どこから来たんだその火力」
「さっきの戦いの中で弟がくれた。……言ってなかったか?私の特性は貰い火だ」
何事も無いかのように言う籠女に、氷雨は静かに振り向き鬼灯と目を合わせる。
「もしかして、結構やばくないか?」
「かもな。……でも、ここで負けるわけにはいかないだろ」
籠女と狂骨を前に、鬼灯と氷雨は立ち上がる。不利だろうと何だろうと、やらないわけにはいかないのだ。
「忍衆がひとり、鬼灯。推して参る」
「同じく、氷雨。参る」
「門番衆がひとり、狂骨」
「同じく、籠女。受けて立つ」
地面を蹴り、四人の影が交差した。


「おらおら、待てコラー!」
「誰が待つかよ!ほら藍染、走れ!」
「もう走ってる」
時折後ろを振り返りながら、天海は藍染を急かして走る。
何故か水貴にあっさり通されたふたりは、大通りを進んだ先で灼錠と遭遇したのだ。どうやら、水貴は彼等と灼錠を会わせる為にあえて見逃したらしい。
「止まれ天海、今日こそ決着をつけるぞ!」
「お断りだ!お前と本気で戦り合ったら、全身火傷じゃ済まねぇんだよ!」
「ちょっとだけ!ちょっとだけだから!」
「断る!」
元々自由人の灼錠にとっては、この合同訓練の趣旨もあまり関係無いらしい。ただ純粋に天海との手合せを望んでいる彼は、しつこくその後を追いかけ回している。
「藍染、天海を止めてくれ!お前は先行っていいから!」
「あ!?ふざけんなよオイ!」
「……あ」
怒鳴り合う天海と灼錠を背後に走っていた藍染が、ふと足を止めた。視線の先には、静かに微笑む女性が立っている。
「吉野」
「え?」
「ん?」
藍染の呟きに、天海達を足を止めた。確かに、そこに立っているのは吉野太夫だ。天海が大通り沿いの建物を見上げると、ここは丁度光刃屋――吉野がいる遊郭の前だ。ここまで来れば、鱗月屋は目と鼻の先である。
吉野は隣に立つ村正を手で制すると、深々と頭を下げた。
「お疲れ様です、皆様」
桜の花のような柔らかな笑顔に毒気を抜かれつつ、天海は吉野に声を掛ける。
「吉野、お前なに外に出てんだ!?今日は危ないから出るなって言われてんだろ」
「はい。ですが、少々差し入れをと思いまして。今から賭博場に向かうところですわ」
「賭博場って……まぁ、ここから近いけどよ」
光刃屋と賭博場は、大通りを挟んで向かいにある。短距離ではあるが、今日は状況が状況だ。いくら村正を連れているとはいえ、一般人である吉野が外出するなど危険極まりない。
「あーっと……灼錠、お前ちょっと待ってろ」
「え?」
「いくらなんでも、こんな日に吉野を出歩かせるとか有り得ねぇだろ。送ってくるから待ってろ」
「でもそいつ」
「いいから!あ、藍染は先に行っていいぞ」
「分かった」
天海に言われ、藍染はひとり鱗月屋へと向かう。灼錠は本当に藍染に興味がないのだろう、おとなしくその場に留まっていた。
「なぁ天海?」
「何だよ」
吉野の背を押す天海に、灼錠は珍しく困ったような声で言う。
「言っていいもんか分かんねぇけど、離れた方がいいんじゃないか?」
「何でだよ」
「だってそれ、吉野じゃないぞ?」
「え?」
「言わないでくださいよ、灼錠さん」
吉野の口から発せられた声は、聞き覚えのある低音だ。
天海は咄嗟に錫杖を突き出し、吉野の姿をした男――不出を突き飛ばす。
「おいおい……よりにもよって吉野に化けるとかやめろよな」
「仕方ないでしょう、貴方達に一番効くのが吉野太夫なんですから」
吉野の姿のまま、不出は村正を構える。たとえ幻影とはいえ、あの村正に斬られれば実際に痛みを感じるだろう。不出の幻影にはそれほどの力がある。
「ったく、やりにくいったらねぇな」
苦い顔のまま、天海も構えを取った。不出と灼錠、ふたり同時に相手をするのは少々骨が折れるが、戦闘は避けられない。
じりじりと距離を測っていると、不意に灼錠が動いた。
「不出、邪魔するな」
「え!?」
灼錠は吉野の衿元――に見えるが、あれは不出の衿元だ。容赦なく手を伸ばし、彼が首にかけている木札を掴んだ。
「ちょ、灼錠さん!?」
「お前はすっこんでろ!」
言うが早いが、灼錠は不出の木札に火を着けた。めらめらと炎は燃え上がり、不出の木札は真っ黒な消し炭となって風に攫われていく。
「う、嘘だろ……?こいつ、後輩を捨てやがった」
「ひ、酷すぎますよ灼錠さん……!」
「いいんだよ。ほら、さっさと賭博場行ってこい!」
灼錠はばしんと不出の背を叩き、賭博場へと追い立てる。その姿に、天海は憐みの籠った眼差しを向けていた。
「……お前、後で門番長に叱られるぞ?」
「その時はその時だ。さ、邪魔はいなくなった、戦るぞ!!」
嬉々として構える灼錠に、天海は溜息を吐く。
「お前、木札じゃなくて首狙ってきそうで怖いんだよなー……」
「流石にそこまではしないっての!」
「めんどくせぇ……なっ!」
天海は後方へ跳び灼錠と距離を取ると、軽く右手を上げた。小さく何事か呟くと、肩に掛けた経文がざわざわと揺れ始める。
「接近戦は不利なんでな。遠くからやらせて貰うぜ」
「んー、そりゃ参った」
天海の放ったリーフストームをひらりと避け、灼錠は口元だけでにやりと笑う。感情の籠らない目からは、生まれ持った攻撃性しか感じられない。
「おらよっ!」
灼錠が前に進むと、天海は行く手を遮る様に手裏剣を打つ。飛び上がれば経を唱え、近寄る隙を与えない。
決定打の無い攻防にやがて痺れを切らせ、灼錠は声に苛立ちを滲ませる。
「なんか、考えるのが面倒になってきた」
「ん?」
「その木札さえどうにかすればいいんだろ?」
「ああ、そうだけど……おい、何のつもりだ?」
「木札を狙えとは言われてるけど、それ以外を狙うなとは言われてないしな。死ななきゃいいんだ、うん」
灼錠は額のゴーグルを下ろすと、自らの体に炎を纏った。火達磨となった灼錠は、じっと天海を見据えている。
「お、おい?落ち着け。まずは落ち着け」
「俺は冷静だ」
「尚のこと悪いわ!」
灼錠は天海目掛けて一気に距離を詰め、その体を捕らえた。天海の着物に火が燃え移るが、あまりの力で捕らえられており逃げることが出来ない。
「おい、放せ!」
「断る!」
じりじりと炎は燃え上がり、天海の木札も焼け焦げていく。これはもう、誰が見ても脱落だろう。
「灼錠、札はもう焼けた!俺の負けだ!」
「あ?」
天海が無理矢理灼錠と視線を合わせるが、彼の目は完全に据わっている。ルールなど忘れて、ただ目の前の敵を倒すことしか頭にないのだろう。天海の背筋に、ゾクリと冷たいものが走った。
「クッソ……!水貴ってもう脱落したのか?」
水貴がいれば、一瞬で消火して貰えるだろう。どうにかして火を消さなければ、冗談ではなく消し炭となってしまう。
天海が灼錠を引き摺りつつ賭博場の方へ足を向けると、不意に全身に冷たい水をかけられた。
「うわっぷ!」
「大丈夫ですか、天海様!?」
「は……吉野!?」
見れば、そこには真っ青な顔の吉野と水桶を持った村正が立っている。どうやら、今度こそ本物のようだ。
吉野は天海と灼錠の間に割って入ると、無理矢理灼錠を引き剥がした。
「お兄様、何をなさっているのですか!」
「あ、吉野」
「あ、じゃありません!」
普段穏やかな吉野が、本気の怒りを灼錠にぶつける。そのあまりの剣幕に、流石の灼錠も冷静さを取り戻したらしい。自分と天海の体を何度も見比べ、困った様に眉を顰めた。
「あっちゃー……やりすぎたな」
「まったくですわ!」
べしべしと吉野が灼錠の胸を叩く。どうやら、灼錠の木札もすっかり焼け焦げているようだ。自らの身を顧みない姿に、天海は恐ろしさすら覚える。
「天海様の声が聞こえて、覗き見てみたらこれですもの。天海様に何かあったら、私……私は……」
うっすらと涙を浮かべ、吉野は必死に兄に訴えかける。
「よ、吉野。泣くな」
「泣かせているのは誰だとお思いですか!村正!」
「御意」
「え」
吉野に命じられ、村正はすらりと身体から刀を引き抜いた。灼錠へと刃を向け、静かに睨む。
「よし……おっと!」
「逃げるな、灼錠」
村正に斬りかかられ、灼錠は逃げ回る。村正の追撃は激しく、灼錠に構える暇を与えない。
吉野はそっと天海の手を取ると、目を合せないまま灼錠に言い放った。
「お兄様、少し反省なさってくださいまし!……さ、天海様。ひとまず賭博場へ参りましょう?傷の手当てをしないと」
「あ、ああ。……あれ、放置でいいのか?」
「構いません」
戸惑う天海の手を引き、吉野は微笑みを浮かべて賭博場へと歩を進める。
「……吉野を怒らせたらただじゃ済まねぇな」
吉野の後を追いながら、天海はぼそりと呟いた。


じゃり、と小石を踏みしめ、藍染は鱗月屋の前で立ち止まった。
花街最大の建築物である鱗月屋は、見上げていると首が痛くなりそうな高さだ。空を飛べない藍染では、外壁を登っていくのは難しいだろう。やはり中に入るしかない。
一歩を踏み出しかけたが、藍染は咄嗟に後ろへと下がった。直前まで藍染が立っていた場所には、上空から急降下してきたのだろう。門番衆の門守に次いで実力者であると謳われる男――瓦車が立っている。
「……」
喉を潰され話すことが出来ないが、瓦車の全身から溢れ出る闘気は言葉以上にものを語っている。ただで通り抜ける事はできなさそうだ。
「退いて」
藍染が試しにそう言ってみるが、瓦車は微動だにしない。
「怪我するよ」
「グ……」
ふるふると瓦車が首を振る。「怪我など恐れていない」と、そう言っているかのようだ。
藍染は大鎌を持ち上げると、地面を叩いた。その衝撃で地面が大きく揺れるが、瓦車はふわりと空へ舞い上がって避ける。彼に地面技は通用しない。
「丹波さまと一緒だ」
空を飛ぶ瓦車を見上げ、藍染は呟いた。瓦車が飛んでいる高さでは、素手はおろか大鎌も届かない。
「動かないでね」
藍染は瓦車に狙いを定め、上空へと手を差し伸べる。
「……降って」
ぽつりと呟くと、遥か遠い空に何かが光った。その気配に、瓦車が身構える。
「……!」
一瞬の後、降り注ぐ流星群が瓦車の体を地面に叩き付けた。空からの攻撃では、流石の瓦車も避けきれない。
「通るね、瓦車」
瓦車の戦闘スタイルでは、屋内戦は向いていないだろう。早く先に進んでしまった方が得策だ。
藍染が倒れる瓦車の横を通り過ぎようと歩を進めると、不意に足首を掴まれた。
「え」
「ガゥ」
唸り声を上げ、瓦車が藍染の足首を引っ張る。バランスを崩した藍染はその場で転倒し、起き上がる瓦車を見上げる形となった。
「……強いね。あなたも『バケモノ』なの?」
「……?」
藍染の問いに、瓦車は首を傾げる。どうやら、藍染の真意を測りかねているようだ。
「負けないよ」
藍染は起き上がると、拳を握り瓦車へと叩き付けた。小柄な体格からは想像もつかない重い拳に、瓦車が小さく呻く。
「ウッ!」
しかし、瓦車も負けてはいない。突き出された藍染の拳を掴むと、そのまま引き寄せて地面へ叩き付けた。
「っ!」
「ガ、ア……」
瓦車は倒れる藍染を踏み付け、動きを封じる。元々が優しい性格の男だ、これが訓練である以上、無闇に抵抗さえしなければ余計な攻撃を加えるつもりは無いらしい。
瓦車は木札を渡すよう身振りで伝えるが、藍染は首を横に振る。
「退いて」
「……」
「行かなきゃ」
「……グ」
藍染の言葉を、瓦車は静かに拒否する。藍染は少しだけ考えると、両手を大きく振り上げた。
「じゃあ、退ける」
振り上げた拳を地面に叩き付けると、藍染を中心に地面が小さく揺れた。直後、表面が隆起し無数の岩が顔を覗かせる。
「……!」
倒れた体勢からのストーンエッジに、瓦車は思わず藍染から飛び退いた。その隙に藍染は起き上がり、鱗月屋の中へと駆けこんでいく。
「ウガ……!」
岩の雨が収まる頃には、藍染の姿は瓦車の前から消えていた。


鱗月屋の中には従業員や遊女達がいるはずだが、きっと隠れているのだろう。人の気配はするものの、随分と静かだ。
藍染はきょろきょろと辺りを見回し、先へと進む道を探す。鱗月屋は外から見てもかなりの大きさだが、内部は迷路の様に複雑な造りだ。気を付けて進まねば迷子になってしまうだろう。
藍染は、訓練開始前に鬼灯に言われたことを思い出す。
「いいか、藍染。鱗月屋の中は入り組んだ造りだが、迷ったら人気の無い方へ進め」
「どうして?」
「中にいる遊女達は、当然戦いを避けるだろ?戦場になる最上階への道には近付かないはずだ」
まさか、天井を壊して登るわけにもいかない。ここは鬼灯の言葉に従う他ないだろう。
「人のいない方……こっちかな」
長い廊下を進んでいくと、やがて突き当りに階段を見付ける。それを上って、次の階層への階段を探す――。
階段を探して藍染があちこち歩き回っていると、ふとどこからか視線を感じた。遊女達かと思い耳を澄ますが、周辺の部屋は完全に無人だ。
「誰?」
藍染が立ち止ると、直後に目の前の部屋の襖が弾け飛んだ。
「……!」
そっと藍染が部屋の中を覗き込むと、室内には誰もいない。いるのは窓の外――室内越しに外から攻撃してくる瓦車の姿があった。
「瓦車」
「ガアァァ!」
唸り声を上げ、瓦車は藍染目掛けて炎を弾丸の様に飛ばす。咄嗟に身を引いて避けたが、何分長い廊下だ。隣の部屋の窓からもきっと攻撃されるに違いない。 走り抜けるにも、瓦車の攻撃の方が速度が上だ。
「……」
藍染は攻撃を受けないよう細心の注意を払いながら、部屋の中を観察する。品の良い調度品、大きな窓、染みひとつ無い畳――。
「畳」
何かを思い付いたのだろう。藍染は軽く跳び上がり、弾け飛んだ襖の上に降り立った。部屋を挟んで、瓦車と正面から向き合う。
「……!」
「いくよ」
瓦車が炎を飛ばした瞬間、藍染は足を踏み鳴らした。その勢いで畳が跳ね上がり、炎を防ぐ壁となる。
「ガッ!」
「こうすれば、瓦車も中に入れない」
炎どころか、瓦車自身も足止めできる一石二鳥の手だ。藍染は廊下を駆け、一室毎に畳を跳ね上げていく。
「ばいばい」
瓦車に向かって小さく手を振り、藍染は上の階へ続く階段を上って行った。


一般客向けの階層は、先程の階までだったのだろう。藍染が階段を上ると、今までとは違う重い空気を感じた。侵入者を防ぐ為のものだろうか?廊下の隅には鳴子や鈴が仕掛けられ、壁には刀まで飾られている。
ここまで来れば、高雄太夫のいる部屋はもうすぐだ。
藍染が歩を進めると、どこからか低い声が聞こえてきた。瓦車が先回りしたのかと思ったが、立ち止まり耳を澄ますと、どうやら歌っているようだ。瓦車ではない。
「……りゃんせ、とおりゃんせ」
「……」
歌声は曲り角の向こうからだ。藍染は大鎌を構えると、勢いよく飛び出した。
「破っ!」
「っ!」
不快な音を立て、大鎌と鉈がぶつかり合う。
曲り角の向こうにいたのは、門番衆の通。門守が不参加な今回、彼が最後の門番の筈だ。
「どうしてあなたがここにいるの?」
通の出現に、藍染が問う。
彼は日中は牢獄から一歩も外に出ない。いくらここが屋内とはいえ、まさか訓練に参加しているとは思わなかったのだ。
通は鉈を構え、静かに言う。
「日の光さえ無ければ、俺も戦えるからな。室内戦になるのはここだけだろうと、昨夜の内に移動しておいただけだ」
「そうなんだ」
「あくまでも保険程度のつもりだったんだがな……待機しておいて正解だった」
通は廊下に立ち塞がり、藍染を見据える。
新参の藍染と、人前に出ない通。お互い手の内は分からないが、狭い空間で派手な立ち回りはできない。純粋な腕力勝負になりそうだ。
「通して」
藍染が大鎌を振り上げ、通に斬りかかった。
「断る。藍染殿こそ、帰って菓子でも食っていればどうだ」
「やだ」
藍染は隙間ない斬撃で通を襲うが、全て鉈で受け止められてしまう。
普通であれば、そろそろ相手の武器くらい破壊できている頃の筈。予想外の事態に、藍染は首を傾げた。
「なんで?」
「破壊力だけなら、俺も負けていない」
藍染の攻撃が緩んだ瞬間、今度は通が反撃に出た。通の鉈を受け止め、藍染が何かに気付く。
「重い……!」
通自身の腕力は、藍染に遠く及ばないだろう。しかし、彼の鉈は驚く程の重量を持っていた。この重さを振り回すとなれば、上手くいけば藍染以上の破壊力を生み出せるかもしれない。
「さぁ、どうする?どうやら随分と力自慢のようだが……斬り合いなら互角だな」
「……」
静かに言う通に、藍染は答えない。
攻撃の手を止めれば一瞬で押し負けてしまうだろう。かといって、単純に斬りかかるだけでは決定打が無い。何か手を考えなければ、進むことも戻ることもできなくなってしまう。
藍染はそっと周囲の様子を探る。この階層は窓が少なくて薄暗い。部屋数は少なく、隠れる場所は無さそうだ。
「……暗い」
ふと、藍染は通の生活環境を思い出す。
日の光を避ける彼は、常に薄暗い牢獄の奥に暮らしている。この階層にいるのも、日当たりが悪いからだろう。……ならば、動きを封じる方法はある。
藍染は通の鉈を弾き上げると、身を翻して壁へと走った。
「逃げるのか!?」
当然ながら追い掛けてくる通を確認し、藍染は壁へと拳を当てる。……この壁の向こうは、外だ。
「えい」
小さく拳を振り上げ、藍染は壁を殴った。鈍い音を立て、壁に拳大の穴が開く。
「何を……っ!?」
藍染の突然の行動に訝しげな顔をしていたが、その意図に気付いた瞬間、通の足が止まった。
通の足元には、藍染が明けた穴から日の光がぽっかりと差し込んでいる。差し込む光に当たらないよう、通はじりじりと後退った。
「こうすれば、通は通れない」
「くっ……!」
ひとつ、ふたつ、通の動きを封じ込めるため、藍染は壁に穴を開けていく。床を照らす光の点は線となり、藍染と通を隔てる境界線となった。
「おとなしくしててね」
言い残すと、藍染は階段を求め先を進む。通は追って来れないはずだ、ゆっくり探せばいい。
狭く入り組んだ廊下を進み、やがて藍染は最上階への階段を発見した。


最上階は、今までの階層と違い明るく穏やかな雰囲気をしていた。
廊下に面した大きな窓からは眩しい程に光が差し込んでおり、これならば通が追ってくる心配もなさそうである。藍染はのんびりとした足取りで高雄のいる部屋へと向かう。
「どこかな」
高雄のいる部屋には、山茶花や筑紫達もいる筈だ。声のする方向を頼りに廊下を進むと――。
「……!」
不意に窓の外から手が伸び、藍染の頭を掴んだ。
ぎりぎりと籠められていく力に、どうにか視線だけ動かせば、視界の端に移るのは瓦車の顔。
「が、しゃ」
「ウゥ!」
瓦車は窓から屋内へ入ると、押し潰す様に藍染の頭を叩き付けた。廊下に縫い付けられ、藍染がくぐもった声を上げる。
「ぐっ……」
「ガウ」
みし、と床板が嫌な音を立てた。頭を押さえる手を外そうと、藍染は瓦車の手首を掴む。
「はな、して」
「ン」
藍染が力を籠めれば、その分だけ瓦車も力を籠める。
静かだが激しい攻防に、見物客達も気付いたようだ。かたりと襖が開き、山茶花が廊下に顔を出した。
「おお、やっておるな。見てみい筑紫」
「あ、瓦車くんと藍染ちゃんだったんだね~」
戦闘を前にして、のんきな物言いのふたりである。その背後から、呆れたように丹波も顔を出した。
「ちったぁ警戒しろよ。……藍染、その程度で何参ってんだ」
「丹波さま」
「まだまだガキってこったな。今度しっかり鍛え直してやんねぇと」
「ぐっ……!」
丹波の言葉に、士気が上がったらしい。藍染の手に一層力が籠る。
「瓦車、どいて」
「ム!」
「高雄、捕まえなきゃ……!」
藍染が吐き出すように叫ぶと、部屋の中から小さく声が聞こえた。
「呼んだ?」
「おい、出るな!」
「あ、高雄ちゃん」
藍染に名を呼ばれ、ずりずりと豪華絢爛な着物を引き摺った高雄太夫が廊下に顔を出す。門守が呼び止めるが、お構いなしだ。
「ウァ!?」
まさか、自分から出てくるとは思わなかったのだろう。高雄の登場に、瓦車の力が緩んだ瞬間。
「っ!」
藍染が大きく身を捻り、瓦車の体を蹴り飛ばした。一瞬だがその巨体が宙に浮いた瞬間、藍染は素早く転がり体勢を立て直す。
「おお、なかなかやりよる!」
「藍染ちゃんすご~い!」
山茶花と筑紫が惜しみない賞賛を送る中、藍染は一直線に高雄へと駆けた。懐からクナイを取り出し、投擲の構えを取る。
「え、ちょっと!?」
「動かないで」
驚きに声が上擦る高雄に冷静に言い放ち、藍染はクナイを投げた。
「っ!」
高雄がぎゅっと目を瞑るが、クナイは高雄の髪の毛一本たりとも傷付けずに、その背後へと飛んでいく。
「ぎゃ!」
クナイが飛んだ先にいたのは、門番でも忍でもない、見知らぬ男だ。額の真ん中に深々とクナイが刺さった男は、大きな悲鳴を上げてその場に崩れ落ちた。
「……門守くん。仲間がいないか捜してきて」
「はっ!」
くせ者の出現に、筑紫は静かに門番へと指示を出す。
「瓦車くん、動けるー?」
「グ……」
「この人、適当に片付けておいてくれるかな?もう息は無さそうだし、水貴ちゃんにでも預けておいて」
「随分と冷静なもんだな」
あまりの落ち着き様に丹波が感心すると、筑紫と山茶花はけらけらと笑う。
「まぁ、慣れてるからね~。っていうか、折角良い所だったのにごめんね?乱入なんて困ったもんだよね~」
「よいよい。それに、まだ勝負は終わって」
「高雄、捕まえた」
「あら、捕まっちゃった」
山茶花の言葉を遮る様に、藍染が声を上げた。
見れば、いつの間にか藍染が高雄の肩に触れている。
「……終わったの」
「……だねぇ」
あまりにあっさりとした幕引きに、筑紫と山茶花は言葉を失った。


**********


「ということで、今回の合同訓練は忍衆の勝利で~す。門番の皆、あとでお説教ね!」
藍染が高雄を捕まえた後、忍衆と門番衆は鱗月屋の大広間へと集められた。
広間には山の様に御馳走が並び、宴会の用意が整えられている。
「いやぁね、まさかこんなオチになるとは思わなかったよねぇ山茶花ちゃん?」
「まったくじゃ。しかし、なかなか楽しませて貰ったぞ?褒美じゃ、今日は思う存分飲め、食え!」
山茶花の言葉を合図に、広間には三味線と琴の音が鳴り響き、煌びやかな着物を纏った女達が舞い踊る。
「ささ、皆食べて食べて!」
「あ、じゃあお言葉に甘えて……」
「いただきます」
まだ傷と疲れの残る身体を労わる様に、忍と門番達は料理に箸を伸ばす。戦闘後とはいえ、元々仲は良いのだ。両者の間に遺恨は無い。
宴会はすぐに盛り上がりを見せ、騒ぎは拡大していく。
「どうせ他の見世も開店休業中だし、誰か呼びたい子いるー?僕が呼べば嫌でも来るよ!」
「職権乱用反対!吉野呼んでくれ!」
「……糸里にも御馳走あげたい」
「筑紫様、藍染殿が糸里を御所望です」
「はいはい!それじゃあ三大遊女も揃えちゃおっか!うっわー、これ総額お幾ら万円かなぁ~」
「氷雨、この刺身冷やしてくれ」
「おいおい、あたしを何だと思ってるんだー。あ、籠女、この酒ぬるい」
「ああ、貸せ」
「不出、お前何にでも化けられるんだろ?何でもいいから化けてみろ!」
「は……はぁ。やってみます」
「……皆、楽しそうじゃの」
部下達の喧騒を眺め、山茶花は満足そうに微笑む。
「山茶花様、お酒は如何ですか?」
「ああ、貰おうか」
高雄の酌を受け、ふと山茶花は高雄に問い掛けた。
「高雄。おぬし、あのくせ者に気付いておったのではないか?」
「え?」
「いや、あまりにも落ち着いておったのでな。もしやと思ったんじゃが」
勿論、山茶花達は騒ぎに乗じて誰かしら侵入することは予想していた。だからこそ、門守と丹波を傍に控えさせていたのだ。
「おぬしには掠り傷一つ負わせぬつもりでいたが、それでも怖い思いくらいはするじゃろうて」
山茶花が気遣うと、高雄は宝石のような目を細めて笑う。
「いいえ、怖くなんてありませんよ。門守も丹波様もいらっしゃいましたし、むしろ心強いですわ」
「そうか?」
「ええ。お優しいんですね、山茶花様は」
「まぁの。忍も門番も、おぬしとて。われにとっては可愛い子等よ」
ぐいと酒を煽り、山茶花は目を細める。宴会を楽しむ若者達は、皆一様に笑顔を浮かべていた。
「……それ高雄、藍染にも酌をしてやれ。くせ者を退治した褒美じゃ」
「はい。あ、お酒は駄目よね……何がいいかしら」
「なんでも良い良い!今日は無礼講じゃ!」
高雄の背を押し、山茶花は高らかに笑う。
この楽しい日常が、永く続くことを願って。
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橋谷あも

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