あけました

春一
春一(★ウォーグル)
あけましておめでとうございます…ました!!!
だいぶ遅いですが、今年もよろしくお願いします。

サンムーン
サンムーンもやってますが、のんびりプレイで今ムーンのシナリオやってるところです。孵化はバンク解禁したら始めるつもりだし、その前にシナリオクリアしちゃいたい…★イワンコほしい…。
アローラっ子まだあんまりいませんけど、設定ページは随時更新しているので遊べそうな子がいたら是非遊んでください。


追記に文章。
つまさん宅の琴恵さんと佐倉さんをお借りしています。がらこと!がらこと!!
勢いで書いたところあるので、勢いで読んでください。誤字脱字はきっとあります…。
保存転載等はつまさんのみご自由にどうぞ。
素敵なお子さんを貸して頂き、有難う御座いました!!



「いろは、看板下げといてくれ」
「わかった!」
瓦嵐の声に従い、伊呂波号は店先の看板を『休憩中』に換えた。
今は午の刻。陽はすっかり高く昇っているが、まだまだ冬の寒さの残る空気に瓦嵐は身を震わせる。
「うー、さっむ……」
「体があるとたいへんだなぁ。おれはぜんぜんさむくないぞ!」
「ちっくしょ、ちょっと羨ましいとか思っちまった」
「ふふん」
自慢気に胸を張る伊呂波号の頭を撫でると、瓦嵐はしっかりと店の戸締りを確認する。
「よし、施錠完了。……さて、昼飯どうすっかな?こう寒いと、冷や飯と残り物ってのはちょっと滅入るんだよなぁ」
軽く腹を撫で、瓦嵐は眉間に皺を寄せた。あまり発明以外に興味を向ける事が無い彼の家は、食料ですらろくに揃っていない。たまに凝った食事をとろうと思うと、外食せざるを得ないのだ。
「たまにはちゃんとざいりょうかって、じぶんでつくったらどうだ?いつも瓦車のつくりおきだろ」
「俺あんまり得意じゃねーんだよ。それに、兄貴が作った方が美味いし」
「こまったやつだなぁ」
伊呂波号が呆れて肩を落とす。しかし、既に慣れ切っているのだろう。深く追及はせずに視線を商店街へと向けた。
「どうする?なんだかどこもこんでそうだぞ」
「え、本当か?」
「こうさむいと、みんなおなじことかんがえてるんだろうな」
「やっべ。どうすっかなー……っうぉ!」
瓦嵐が店先で悩んでいると、不意に背後から肩を叩かれた。驚いて大声を上げれば、手の主もまた驚いたらしい。ぱっと手を放し、瓦嵐の正面に回った。
「何す……って、兄貴かよ。脅かすなよな」
「ン」
「あ、瓦車ー!」
手の主は、瓦嵐の兄の瓦車だ。瓦車はその場に軽くしゃがむと、招くように両手を差し出した。
「よーし、いくぞー!」
その手に誘われるように、伊呂波号が瓦車の胸に飛び込む。しっかりと首に手を回したのを確認すると、瓦車は伊呂波号を抱き抱えたまま立ち上がった。
「兄貴も昼休みか?」
「ええ。瓦嵐も、きょうははやいんですね」
瓦嵐の問いに、答えたのは伊呂波号だ。本来瓦車の人工声帯として作られた伊呂波号は、こうして瓦車の言葉を代弁することができるのだ。伊呂波号はしっかりと耳を瓦車の喉に寄せ、声なき声を聞き取っている。
「どうですか、わたしはこれからそばやにいくつもりなんですが。瓦嵐もいっしょにきます?」
「え、寄りにも寄って蕎麦かよ。やめとけって兄貴」
「どうしてです?あきほじょうがしんさくをつくったとおっしゃっていたんですよ。きになるでしょう?」
「あんな女の飯なんざ食えるかっての」
「こら、そんなこというもんじゃありません!」
瓦車に叱られ、瓦嵐が不貞腐れた様にそっぽを向く。
瓦嵐にとって、瓦車が声を失う原因となった秋穂は絶対に許せない相手なのだ。その秋穂が働く店に行くなど、瓦嵐には耐えられないらしい。
「瓦嵐、そんなにきらわなくてもいいじゃありませんか。わたしはべつにおこっていませんし、あなたがひとりですねているだけなんですよ?」
「むしろ兄貴が甘すぎるんだよ!行きたきゃ一人で行ってくれ、俺は絶対に行かねぇ!」
「まったく……じゃあ、きょうのひるはどうするんだ?きのうののこりはぜーんぶけさたべてたろ?」
「ガゥ!?」
不意に発せられた伊呂波号の言葉に、瓦車が悲鳴のような声を上げた。
「な、何だよ!?」
「いろはごうくん、いまのはなしはほんとうですか?……うん、ほんとう。……瓦嵐、いつもいっていますよね?しょくじはきちんととりなさい!」
伊呂波号に確認を取ると、瓦車は瓦嵐を叱った。まるで子どもに対する言い草に、瓦嵐は居心地が悪そうに頬を掻いた。
「だってよ……仕事忙しくて、つい」
「ほんとうにこまったおとうとですよ。そうだそうだ!」
「いろは、混ざるな」
「お、ごめん。つい。……瓦嵐、せめておひるくらいはちゃんとしたものをたべなさいね。あきほじょうのみせがいやなら……そうだ、かみとふではありますか?おすすめのみせがあるんです」
「へ?お勧め?」
「はい。ちずをかきますから、そこにいってごらんなさい」
そう言うと、瓦嵐は両手を空けるため伊呂波号を地面に下ろした。下ろされた伊呂波号は、瓦車を見上げてトントンと自分の頭を指差す。
「瓦車、ちずなんかいらないぞ!みちじゅんさえいってくれれば、おれがぜんぶおぼえる!」
「ン?」
本当に?と言いたげに首を傾げる瓦車に、伊呂波号は大きく頷いた。再度瓦車の首に腕を伸ばし、喉に耳を寄せる。
「さぁ!」
「兄貴、頼むわ。いろは、しっかり覚えろよ」
「そうですか?えーとですね、まずだいもんをでてまっすぐ……」
瓦車の指示する道順を、伊呂波号が声に出して確認していく。
「……で、ひだりてがわにみえるみせです。おいしいとひょうばんなんですよ」
「なんだ、結構近いじゃん。いろは、道覚えたか?」
「ばっちりだ!」
「よし。偉いぞ!」
「いってらっしゃい、瓦嵐」
伊呂波号から身を離し、瓦車は手を振りながら去って行った。このまま蕎麦屋に行くのだろう。
「さ、俺達も行くか。案内頼むぞ、いろは」
「おう!さ、ついてこい瓦嵐!」
瓦嵐の手を引き、伊呂波号は意気揚々と歩き出した。


**********


瓦嵐が伊呂波号の案内に沿って進むと、やがて小洒落た雰囲気の店が見えてきた。
「お、あれか?」
「みたいだな。おんせいあんないをしゅうりょうするぞ!」
「おう、お疲れ」
窓の外からそっと店内を覗き込むと、まだ開店したばかりだろうか?他に客はいないらしい。
カウンター席と、テーブル席が三つ。瓦嵐の位置からは店員の姿が見えないが、センスのいいアンティーク調の内装からして店主はおそらく女性だろう。
瓦嵐は店の扉に伸ばした手を一瞬止め、小さく呟く。
「……俺、こういう洒落た店って入ったことねぇんだよな……」
「まぁ、瓦嵐だもんな」
「オイこら、どういう意味だ?」
「きにするな!さ、はやくはいろう!」
ぐいぐいと背中を押す伊呂波号に叱る気を削がれ、瓦嵐は店の扉を開けた。小さくドアベルが鳴り、その音にカウンター裏の厨房にいた女性が振り向く。
「あ!佐倉さん、お客さんですよ!」
「いらっしゃいませ。ことちゃん、ご案内して」
「はーい!」
カウンター裏から出てきた女性は、ひとつに纏めた髪をふわふわと揺らしながら小走りで瓦嵐達のもとへとやってくる。
「いらっしゃいま……わわっ!転ぶ……!」
「え」
「きゃあっ!」
一瞬の出来事に、身構える暇も無く瓦嵐は天井を仰いだ。後頭部と腰に強い衝撃を受け、視界が白く染まる。
「いってぇ……!」
「いたた……」
「瓦嵐、だいじょうぶか!?」
「ん、ああ……って、おい!?」
瓦嵐は反射的に閉じていた目を開くと、大声を上げた。見れば、先程瓦嵐達の前で転んだ女性が見事に瓦嵐を押し倒している。女性は瓦嵐の胸に顔を埋め、がっちりと上半身を抱き込んでいた。
「お、おいっ!大丈夫か?」
「は、はい……って、きゃー!ごめんなさいっ!」
瓦嵐に声を掛けられ、女性は慌てて瓦嵐の上から飛び退いた。ぺこぺこと頭を下げ、何度も瓦嵐に謝罪する。
「ごめんなさい、足がもつれちゃって……!あの、お怪我は!?どこか痛いところとかは」
「あ、いや。大丈夫だけど。むしろあんたの方こそ怪我してないか?」
「大丈夫です。わたしはいつものことですから!」
「それもどうかとおもうぞ」
「うう……!」
「こら、いろは!」
しょんぼりと肩を落とす女性に追い打ちをかける伊呂波号を叱り、瓦嵐は女性に頭を下げる。
「ごめんな、うちのが失礼なこと言って」
「いえ、気にしないでください。えっと、気を取り直して……二名様でよろしいですか?」
「ん、ああ」
「では、こちらの席にどうぞ!」
女性に促され、瓦嵐と伊呂波号は窓際のテーブル席に着く。メニュー表を受け取りながら、瓦嵐は女性に訊ねた。
「あんたがここの店主か?」
「いいえ、わたしじゃなくて」
「初めてのお客様ですよね?店主の佐倉と申します」
瓦嵐の問いに、カウンター裏から声が返ってきた。視線をやると、落ち着いた雰囲気の女性が微笑んでいる。
佐倉と名乗った女性は瓦嵐達のテーブルまでやってくると、頭を下げ困った様に笑った。
「さっきはごめんなさいね。ことちゃん……琴恵はちょっとうっかりしたところがあって」
「うう、ごめんなさい~!」
「ああほら、泣かないで。……この通り、悪気は無いんですけど」
先程の失態を思い出したのだろう、琴恵と呼ばれた女性は恥ずかしそうに眉を寄せた。その姿に、毒気を抜かれた様に瓦嵐も笑う。
「ああ、大丈夫ですよ。えっと、琴恵ちゃん?」
「っ!はい!」
「そんな気にしなくていいから。怪我もしてねぇし」
「そ、そうですか……?」
「だいじょうぶだぞ、ことえ。瓦嵐はじょうぶだけがとりえだ」
瓦嵐と伊呂波号に言われ、やっと琴恵の表情に安堵の色が浮かぶ。
「あの、せめてゆっくりしていってくださいね。佐倉さんの作るご飯はとってもおいしいですから!」
「じゃ、お言葉に甘えて。何にすっかな……」
「ふふ。決まったら声を掛けてくださいね」
にこりと微笑みを残し、佐倉は厨房へと戻っていった。厨房からはほんのりと出汁の香りが漂い、店内を優しく満たしている。
その香りに鼻をひくつかせながら、瓦嵐はメニュー表を睨み始めた。
「どれもこれも、空きっ腹には魅力的だよなぁ」
「はやくきめちゃえよ。ひがくれるぞ」
「いや、流石にそこまではかかんねぇよ」
「あなたはもう何にするか決めたんですか?」
瓦嵐を急かす伊呂波号に、琴恵が訊ねる。伊呂波号は小さく首を振ると、自分の頬をコンコンと叩いた。
「おれはたべないぞ。にんぎょうだからな、たべなくてもへいきだ!」
「え……ええ~っ!?」
「ふふん、すごいだろ!おれはいろはごう!瓦嵐がつくったはなまち一のにんぎょうだ!」
驚きの声を上げる琴恵に、伊呂波号は自慢げに言う。
「いろはごう、くん?え、本当にお人形なんですか?」
「ん、いろはでいいぞ。おれはしょうしんしょうめいにんぎょうだ!たしかめてみるか?」
「へ……あ、本当だ!」
伊呂波号が差し出した手を握り、琴恵がその感触を確かめる。生物の手にしては硬い指、黒い肌も衣装ではなく元々その色のようだ。
あまりにも自然に振舞う伊呂波号に興奮を隠せぬまま、琴恵は瓦嵐に話し掛ける。
「あの、いろはくんを作ったのって」
「俺だけど」
「わぁ!凄いですね!……あ、もしかして。瓦嵐さんって花街の瓦嵐堂の?」
小さく手を叩く琴恵に、瓦嵐は驚いて顔を上げた。
「え、知ってるのか?」
「はい!前に秋穂さん……ご存じですかね?お蕎麦屋さんのお嬢さんなんですけど。秋穂さんから聞いたことがあります!」
「あの女ァ……こんな所にまで出て来やがって」
ぎり、と奥歯を噛み締める瓦嵐に、琴恵も何かを察したらしい。困った様に伊呂波号に視線を送ると、こちらは慣れたものだ。伊呂波号は小さく首を振り、静かに言う。
「きにしなくていいぞ、じびょうみたいなもんだ」
「そ、そうなんですか……?」
「瓦嵐はあきほがきらいだからなぁ。きょうだって、あきほのみせがいやでここにきたんだ」
「俺は絶対に蕎麦屋にゃ行かねぇからな!よし、琴恵ちゃん!決めた、これにする!」
「あ、はい!……佐倉さーん!注文入りましたー!」
瓦嵐の注文を取り、琴恵は佐倉のもとへと走っていく。
「瓦嵐、まぁおちつけ」
「ったくよぉ……元はと言えば全部あの女のせいだろ。あんな事が無けりゃ兄貴だって……」
「めんどくさいなぁ」
ぶつぶつと愚痴を呟き続ける瓦嵐にうんざりした表情を浮かべ、伊呂波号は曖昧に相槌を打ち続けた。


「お待たせしましたー!魚の煮付定食です!」
「やっときたー!」
注文した料理を運んできた琴恵に、伊呂波号が安堵の声を上げる。
あれから、料理ができるまでずっと瓦嵐の愚痴を聞かされ続けていたのだ。伊呂波号はどことなく疲れた顔で瓦嵐に料理を勧める。
「ほら、瓦嵐。きたぞ」
「お。ありがとな、琴恵ちゃん」
「いえ。どうぞごゆっくり!」
ほかほかと湯気を立てる定食に、瓦嵐は早速箸を伸ばす。一口頬張り、驚いたように目を見開いた。
「ん……うおっ、うまいな!」
「でしょう!?佐倉さんのご飯は世界一ですよ!」
瓦嵐の反応に、琴恵も小さく胸を張る。佐倉の料理を褒められて、心底嬉しそうだ。
「佐倉さんのご飯、わたしも大好きなんです!」
「ふふ。ありがとうございます、瓦嵐さん。ことちゃんも」
「料理上手いんですね、佐倉さん」
「長いこと作ってますからね。ささ、ごゆっくり召し上がってくださいな。……ことちゃん。もうすぐお店忙しくなるから、準備手伝ってくれる?」
「あ、はーい!」
佐倉に呼ばれ、琴恵はそそくさと厨房へ入って行った。その背中を見送り、瓦嵐は定食へと向き直る。
「うまそうにたべるなぁ」
「そりゃ美味いからな」
羨ましそうに見詰める伊呂波号に、瓦嵐はニッと笑って答える。
「瓦車もいいみせおしえてくれたな」
食事ができない伊呂波号だが、店そのものを気に入ったらしい。瓦嵐が食べ終わるのを待つ間も、しきりに店内を見回している。
「ほかにもいくつかおしえてもらったし、あしたはちがうみせにいってみるか?」
「あ?……んー、そうだな。折角だし食べ比べってのもありか」
「やったー!おでかけおでかけ!」
「お前、出掛けたいだけだろ?」
無邪気にはしゃぐ伊呂波号に、瓦嵐が笑みを浮かべた瞬間。
「佐倉さん、大変ですー!」
「どうしたの、ことちゃ……あら!」
厨房から、何やらただならぬ声が上がった。
「お!?なんだなんだ!?」
「佐倉さん、琴恵ちゃん?どうかしたのか?」
瓦嵐達が立ち上がり厨房を覗き込むと、呆然として立ちすくむ琴恵の背中が見えた。その向こうには、ぱかぱかとオーブンを開閉する佐倉の姿がある。
「琴恵ちゃん、どうした?」
「あ、瓦嵐さん……それが」
「オーブンの扉が壊れてしまって」
戸惑った様子で、佐倉がオーブンを示す。オーブンの扉は本来閉じればその状態で固定される筈だが、佐倉が閉めたは扉は手を離した瞬間に勢いよく開いてしまった。
「あちゃあ……これじゃ使い物にならねぇな」
「ど、どうしましょう佐倉さん~!?」
「とりあえず、今日はオーブンを使ったメニューは無理ね。直すにしても新しく買うにしても、すぐには無理でしょうし……」
今後の相談を始める佐倉と琴恵を横目に、瓦嵐は厨房に入り壊れたオーブンを調べる。年季が入ってはいるが、扉以外は特に異常なさそうだ。きっと、何度も開閉するうちに扉が傷んでしまっただけだろう。
「佐倉さん、ちょっとこのオーブン借りてってもいいですか?」
「え?」
瓦嵐が申し出ると、佐倉と琴恵は目を丸くする。
「これくらいならすぐに直せそうだ。今日は急ぎの仕事もないし、持って帰って直してくるよ」
「瓦嵐さん、オーブンも直せるんですか?」
「ああ。修理も俺の仕事なんでね」
「わあ、すごーい!」
「いいんですか?助かります」
瓦嵐はオーブンを持ち上げると、傍らに立つ伊呂波号に渡す。
「いろは、落とすなよ」
「まかせろ!」
瓦嵐からオーブンを受け取った伊呂波号は、細腕ながら意外にも安定した様子で担いでいる。人形故だろうか、見た目よりも力はあるらしい。
「それじゃ、ちょっと預かりますね。琴恵ちゃん、お勘定頼むわ」
「はい!」
会計を済ませ、瓦嵐と伊呂波号は店を出る。昼時の表通りは先程よりも人が増えていた。この店もすぐに客でいっぱいになるだろう。
「明日の昼までには持ってくるから。それまで辛抱してくれな、琴恵ちゃん」
「ありがとうございます!お待ちしてますね」
「じゃあな、ことえ!」
にこにこと手を振り見送る琴恵に軽く頭を下げ、瓦嵐達は足早に帰路についた。


**********


「こんちはー、瓦嵐堂でーす」
「おとどけにまいりましたー!」
「お待ちしてましたー!」
翌日。瓦嵐と伊呂波号はオーブンを載せた台車を押して、佐倉と琴恵の店を訪れた。出迎えた琴恵は、綺麗に修理されたオーブンに瞳を輝かせながら叫ぶ。
「わぁ、すっかり元通り!瓦嵐さん凄いです!」
「まぁな。大した故障じゃなかったし、店に余ってた部品でどうにかなったぜ」
「本っ当に、助かりました。ありがとうございます!」
「いいっていいって。で、何処に置けばいい?前と一緒の場所か?」
「はい、お願いします!佐倉さーん、オーブン届きましたよー!」
琴恵の先導で瓦嵐達が店内に入ると、開店の支度をしていたのだろう。カウンター裏から佐倉がひょっこりと顔を出した。
「いらっしゃいませ、瓦嵐さん、いろはくん。ごめんなさいね、急にお願いしちゃって……」
「いえ、昨日の料理美味かったですし。そのお礼ってことで」
「さくら、もうオーブンこわれないからな!あんしんしてくれ」
「ありがとうございます」
瓦嵐と伊呂波号は厨房に入ると、オーブンを元の位置に置いた。試しに電源を入れてみると、問題なく稼働を始める。扉も異常はない。
「これでよしっと」
オーブンが動いたことを確認すると、琴恵は安心したように胸を撫で下ろした。
「開店に間に合ってよかったです。ほっとしました~!」
「さ、ことちゃん。急いで支度するわよ。瓦嵐さん達も、少しだけ待っていてもらえますか?折角いらっしゃったんですし、お昼食べていってくださいな」
「あ、そうですね!ささ、座ってください!」
佐倉の言葉に、琴恵が瓦嵐の背中を押す。昨日と同じテーブル席へと案内された瓦嵐は、小さく琴恵を振り返って訊ねた。
「琴恵ちゃん、そっちのカウンター席でもいいか?オーブンの動き見ておきたいんだけど」
「え?あ、はい。勿論です!それじゃあこっちにどうぞ!いろはくんも」
「有難うな」
「おお、ちゅうぼうがよくみえる!」
瓦嵐と伊呂波号はカウンター席に並んで座ると、興味深そうに厨房を覗き込む。
「それじゃ、何かオーブン使った料理お願いします」
「はい。少々お待ちください」
「佐倉さん、わたしも手伝いますよ!」
「ことえーがんばれー!」
伊呂波号の声援を受け、琴恵が包丁を握る。隣に並ぶ佐倉程ではないが、なかなかの手際のよさだ。
「へえ、琴恵ちゃん結構上手いんだな」
「ふふん、そうでしょう!こう見えてもたっくさん練習してるんですよ!」
感心する瓦嵐に、琴恵は誇らしげに笑う。
「ことちゃん、飲み込みが早いんですよ。みるみるうちに上手になって……そのうち追い越されちゃうかしら?」
「えっ……えへへー!やですよぉ、佐倉さんったら!」
佐倉に褒められた琴恵は、にこにこと嬉しそうだ。ほんのりと頬を赤く染め、佐倉のことを慕っているのが分かる。
「仲良いんだな、二人とも」
「はいっ!」
元気に笑う琴恵に、瓦嵐もつられて笑みをこぼす。隣に並ぶ伊呂波号も、瓦嵐の着物の袖を引っ張り訴えた。
「瓦嵐、おれたちだってなかいいんだからな?」
「おう、だな」
「いろはくんも、瓦嵐さんのこと大好きなんだね」
「いやぁ、おれがめんどうみないと瓦嵐はだめだめだからな!」
「いろは、後で覚えとけよ?」
わしわしと伊呂波号の頭を撫で回す瓦嵐に、佐倉と琴恵も小さく笑う。
「仲が良いのはいいことですよ。……さて、早速」
佐倉は魚の包み焼きを作るらしい。てきぱきと準備を整えると、早速直ったばかりのオーブンに魚を入れた。
「あとは焼き上がるのを待つだけです」
「はー、腹減ってきた」
昼食にはまだ少し早いが、こうも食欲を刺激されてはたまったものではない。思わず溢れる瓦嵐の言葉に、琴恵がすかさず反応した。
「瓦嵐さん!それでしたら、ちょっと食べてもらいたいものがあるんですけど」
「ん?」
琴恵はコンロにかけてある鍋の蓋を開けると、その中身をいそいそと小鉢に盛る。
「これ、わたしが作ったんですよ!……佐倉さんにもちょっと手伝ってもらいましたけど」
瓦嵐の前に差し出された小鉢には、旬の野菜で作られた煮物がたっぷりと盛られていた。作りたてなのだろう、うっすらと湯気が漂い瓦嵐の食欲をそそる。
「へぇ、琴恵ちゃんが?」
「はい!お世話になりましたし、そのお礼です!」
「いいんですか?」
瓦嵐がちらりと佐倉を伺い見ると、佐倉も微笑んで頷く。
「勿論ですよ。どうぞ、召し上がってください」
「それじゃ、遠慮なく」
瓦嵐は煮物に箸を伸ばし、一口頬張る。
「ん~……」
「どうですかっ?正直に言ってください!」
カウンターに上半身を乗り出し、琴恵が訊ねる。
「えーと……」
「もっ、もしかして、まず……!?」
「あ、いや、不味かねぇよ!ちょっと濃い目だけど、結構いい味してる」
「本当ですか!」
「ただ……硬い、か?何か芯が残ってるっつーか」
瓦嵐は気まずそうに眉間に皺を寄せる。その反応に、琴恵はがっくりと肩を落とした。
「か、硬いですか……」
「でもまぁ、そこまで気にする程のもんじゃないって。これならちょっと練習すりゃすぐ美味く作れるようになるだろ」
「あらまぁ。惜しかったわね、ことちゃん」
「さ、佐倉さぁ~ん!」
「ふふ、今度のお休みにでも練習しましょうか。……あら」
半泣きの琴恵の声に被さる様に、オーブンがチン!と音を立てた。佐倉は会話を切り上げると、オーブンの扉を開く。
「お待たせしました。お魚、焼き上がりましたよ」
「お、待ってました!」
目の前に差し出された魚に、瓦嵐が歓声を上げる。
「うん、流石は佐倉さんだな。美味い!」
「むー……」
佐倉の料理に頬を緩ませる瓦嵐と対照的に、琴恵は小さく頬を膨らませた。悔しそうに唇を噛み、瓦嵐に向かって言う。
「が、瓦嵐さん!」
「ん?何だ?」
「あの、明日も来てくれますか!?わたしだって、本気を出せばもっと上手に作れるんですから!」
「え?お、おう……」
「見ててください、ぎゃふんと言わせちゃいますからね!」
むんっと意気込む琴恵に、呆気にとられた様子で瓦嵐が頷く。
そんな琴恵の横顔をちらりと見やり、佐倉は何かを察したかのように小さく微笑んだ。


それから数日、約束通りに瓦嵐は店に通い続けた。毎日注文する度に一品、次の日もまた一品と琴恵作の料理を差し出される。
「瓦嵐さん!今日の和え物はわたしの力作ですよ!」
「お、そうなのか?いただきます」
「瓦嵐さん、今日は琴恵特製お味噌汁です!」
「……成程、合わせ味噌だな?」
「瓦嵐さん、このお野菜は新鮮朝採れなんです!」
「あ、道理で。歯ごたえ良いな」
もぐもぐと琴恵の料理を平らげる瓦嵐の傍らで、伊呂波号はこっそりと佐倉を手招きする。
「なぁ、さくら。ことえはいったいどうしたんだ?」
「え?」
「まいにち瓦嵐にいろいろたべさせてるけど、えづけでもするつもりかな」
瓦嵐達に聞こえないよう小声で問い掛ける伊呂波号に、佐倉は一瞬きょとんとしたが、すぐにくすくすと笑みを浮かべた。
「餌付け……まぁ、当たらずとも遠からずってところでしょうね。胃袋を掴むのって、効果抜群ですから」
「む?……ははぁ、なるほどなー。そういうことか」
佐倉の反応から、伊呂波号も察したらしい。こっそり琴恵に視線をやれば、彼女の目は真剣に瓦嵐を見詰めている。
琴恵の視線に気付いているのかいないのか、瓦嵐は箸を置くと真っ直ぐに琴恵の目を見て言った。
「ごっそさん、琴恵ちゃん」
「はい、お粗末さまでした!」
しっかりと完食した瓦嵐に、琴恵は満足そうだ。小さく鼻歌を歌いながら空いた皿を片付ける琴恵に、瓦嵐が訊ねる。
「今日のも美味かったぜ。明日は何作るんだ?」
「あ、明日はお店お休みなんですよ。また明後日いらしてください!」
「え、休み?」
「はい。定休日なんです」
琴恵が壁にかかったカレンダーを指差して言う。瓦嵐がその指先を追うと、確かに明日の日付に『休』と書かれていた。
「あーあ、そりゃ残念。琴恵ちゃんの一品、結構楽しみにしてんだけどな」
「えっ!えっへへ……有難う御座います!」
「そんじゃ、明日は我慢すっか。また明後日来るわ」
「はい!お待ちしてます!」
手を振りながら帰っていく瓦嵐に、琴恵は深々と頭を下げる。瓦嵐の後姿が小さくなると、不意に肩を叩かれた。振り向けば、背後には佐倉が立っている。
「ことちゃん」
「あ、佐倉さん!あの、明日は」
「ええ。任せて頂戴」
「やったー!ありがとうございますっ!」
にっこりと微笑む佐倉に、琴恵は両手を上げて喜んだ。


**********


からからとドアベルが鳴り、瓦嵐と伊呂波号の来店を告げる。
琴恵は反射的に顔を上げ、二人を出迎えに駆け出した。
「いらっしゃいませっ!」
「ことえ、ふつかぶりー!」
「琴恵ちゃん、あんまり慌てるとまた転ぶぞ?」
「大丈夫です!今日のわたしは一味ちが……わわっ!」
「あーほら!言ったそばから!」
ふらりとバランスを崩す琴恵を、転ぶ直前で瓦嵐が支える。もう何日も通っていると流石に慣れたらしい。瓦嵐は顔色一つ変えずに琴恵を立たせると、悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「さて、昨日は昼飯が随分と寂しかったからな。今日は豪華なの頼むぜ?」
「はい!」
一日休みを挟んだだけだが、すっかり店の味に慣れ切った瓦嵐にとっては余程待ち遠しかったらしい。案内されるまでもなく席に着くと、早速メニュー表に目を通す。
「どれにすっかなぁ」
「瓦嵐、はやくきめろー」
「あのっ、今日はこれ!これがおすすめですよ!!」
悩む瓦嵐に、琴恵がびしっとメニュー表を指差して言う。
「魚のフライ?」
「はい!今日は絶対っ!これにするべきです!!」
「えっ……と、じゃあそれで」
「かしこまりましたー!」
妙に力を込めて言う琴恵に違和感を覚えつつも、瓦嵐は勧められた通りに注文を決める。
「少々お待ちくださいね!」
意気揚々と厨房へ向かう琴恵に、瓦嵐と伊呂波号は目を合わせて首を傾げた。
「……何だ?」
「さて?」


琴恵の勢いに押し切られて選んだとはいえ、どうやら選択は間違っていなかったらしい。瓦嵐の前に置かれた盆には、美味しそうに湯気を立てる料理が所狭しと並んでいた。
「お、こりゃまた美味そうな」
「さ、どうぞどうぞ!召し上がれ!」
テーブルの脇に立ち、琴恵は箸を手にする瓦嵐を緊張した面持ちで見詰める。
「今日はどれが琴恵ちゃん作なんだ?」
「それは食べてみてのお楽しみです!当ててみてください!」
「成程なぁ……どれ」
瓦嵐は料理に箸を伸ばすと、一口ずつゆっくりと味わう。
「んー……魚うめぇな」
「本当ですか!」
「あ、でも味噌汁もそれっぽいな」
「うんうん……!」
「瓦嵐、こめは?」
「聞けよいろは、なんと俺好みの硬さ」
「そうでしょうそうでしょう!」
瓦嵐の言葉ひとつひとつに、琴恵は感慨深そうに頷いた。自慢げに胸を張っているが、頬がでれでれと緩んでいる。
瓦嵐はあっという間に料理を食べきると、琴恵に向かって両手を合わせた。
「琴恵ちゃん、降参!今日のやつは全っ然分わかんねーや。どれが琴恵ちゃんのだ?」
「ふふーん!聞いておどろけです!」
琴恵は盆ごと空いた皿を持ち上げると、瓦嵐に見せつける様に掲げた。
「今日の料理は!なんと、わたしがぜーんぶ作ったんですよ!」
「え、全部か!?」
「はい!」
ぱあっと大輪の花のような笑顔を浮かべる琴恵に、瓦嵐は目を丸くする。
「本当かよ、全然分かんなかったぞ?佐倉さんの料理に負けてないんじゃないか?」
「昨日のお休みに、みっちり練習したんです!佐倉さんに教わりましたから味は保障しますよ!」
「へぇ、れんしゅうかー!」
「そうなんですか、佐倉さん?」
瓦嵐がカウンター越しに佐倉に話を振ると、佐倉もにっこりと微笑みを返す。
「ええ。ことちゃん、とっても頑張ったんですよ?今までの注文から瓦嵐さんの好みを考えて……。最初はちょっと怪しかったんですけどね?最後の方は本当に上手になってて。今期一番の出来だーって大はしゃぎしてたんですから」
「さ、佐倉さんっ!」
琴恵はカウンターに盆を置くと、慌てて両手を伸ばし佐倉の口を塞ぐ。
「いいい言わないでくださいよぉっ!」
「うふふ。ことちゃんたら照れちゃって」
「もうっ!」
「琴恵ちゃん、すげぇ真っ赤」
耳まで赤く染め上げた琴恵に、こみ上げる笑いを抑えきれず瓦嵐が言う。
「今期一番ねぇ……確かに美味かったわ。こりゃ、毎日どころか毎食食いたいくらいだ」
「えっ!?」
「ごちそうさん、琴恵ちゃん。明日も楽しみにしてるからな。あ、お勘定ここ置いとくぜ」
ちゃり、と机に銭を載せて瓦嵐が席を立つ。
「行くぞ、いろはー」
「おう。……ことえ、よかったな!」
伊呂波号が去り際にぐっと親指を立て、店を出る瓦嵐に続く。
「ありがとうございました」
「あ、あのっ、ありがとうございましたー!!」
瓦嵐達が出て行くと、琴恵はその場にふにゃりとしゃがみ込んだ。余程緊張していたのだろう、深く溜息を吐く。
「はぁぁ……よかったぁ~!」
安堵の声を上げる琴恵の頭を撫で、佐倉は優しく言う。
「おめでとう、ことちゃん。毎食食べたいだなんて、随分とお熱いわね?」
「佐倉さんっ!?もう、からかわないでくださいよ!」
「あらあら、ごめんなさいね。でもまんざらじゃないんでしょ?」
「……はい」
赤い顔を隠す様に俯きながらも、琴恵はしっかりと頷く。佐倉にその表情を読み取ることはできないが、琴恵が纏う空気は柔らかい。きっと幸せそうに笑っているのだろう。
「胃袋を掴んだらこっちのものよ。頑張ってね?私も応援するから」
佐倉が丸まった琴恵の背中をぽんと叩くと、琴恵は弾かれたようにすっくと立ち上がる。
「はい!ご指導、よろしくお願いします!」
大きな声で言うと、琴恵はエプロンの紐を結び直した。
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橋谷あも

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