夏のお嬢さん

ナパイア メランコリア
ミーア 原羽良
刃硝
ナパイア(Aガラガラ♀)、メランコリア(オニシズクモ♀)、ミーア(ビビヨン♀)、原羽良(ばるはら/スワンナ♂)、刃硝(ばしょう/サザンドラ♂)
まだ設定上げてないんですけど、新顔達~。
割と即席の方が思いっきり趣味に走れたりするんですが、ナパイアと刃硝が物凄く趣味に走り過ぎていてとても気に入っています。ナパイアはお馬さんじゃなくて首無し夫人の方が本体です。

追記に文章。
さだき神のお宅のジズさんをお借りしております。ジズフェン!ジズフェン!!
途中までは添削して頂いてますが、後半好き勝手書いてて…あの……色々違ったらレンガブロックで殴ってください…!誤字脱字があったらそっと教えてください……
保存転載はさだき神のみご自由にどうぞ。
素敵なお子さんをお貸し頂き、有難う御座いました!!



早朝の澄んだ空気を掻き分け、一隻の飛空艇が徐々に高度を下げていく。機内から見下ろす帝国の街並みに、ヘリオスは興奮した様子でフェンガリの肩を叩いた。
「フェンガリ、ほら!見てみろよ!」
「どれ……へぇ。俺達の街とは全然違うな」
「あの道、全部石畳かな?綺麗だなー、あとで観光しようぜ」
「おい、遊びじゃないんだぞ?」
「わかってるって!」
きらきらと目を輝かせるヘリオスに、フェンガリは苦笑を浮かべる。
この二人──いや、この飛空艇に乗っている者は皆、アローラ警察署の新米警察官達だ。此度の帝国入りは、観光などではなく新米警官への研修目的である。本日より二週間、軍式の戦闘訓練を受ける為に遥々帝国までやってきたのだ。
飛空艇が無事帝国内の港に入港すると、ヘリオスとフェンガリは持参したトランクを抱えて外に出た。大きく吸い込んだ空気は、地元と比べて少しひんやりとしたように感じる。
「フェンガリ、この後は?」
ヘリオスが訊ねると、フェンガリは予定を全て頭に入れているのだろう。軽くヘリオスを一瞥すると、すたすたと歩き出しながら答える。
「一度宿舎に入って荷物を置いてから、養成所に移動だ。午前中に研修中の注意事項や帝国での生活における注意、あと歴史なんかの説明をざっと受けて、午後からは戦闘訓練に入る」
「えー。いきなりすぎない?」
「いきなりって……二週間しかないんだから当然だろ。かなりスパルタだろうし、覚悟しとけよ」
「うへぇー」
重い足取りのヘリオスが追い付いてくるのを待ち、フェンガリは彼の隣に並ぶ。
「ま、お互い頑張ろうな」
「うーん、だな」
ふたりは互いに励まし合うと、その拳を合わせた。

今回寝泊りする宿舎は、軍の養成所から少し離れた場所にある。
ヘリオスとフェンガリは、双子だからだろうか?どうやら宿舎での部屋割りは同室のようだ。到着するとロビーで鍵を受け取り、これから二週間を過ごす部屋に入った。
「へぇ、思ったより広いな」
ベッドにトランクを投げ置き、ヘリオスは早速室内を見て回る。その間にフェンガリは手早く荷解きを済ませ、研修に必要な教本を持った。
「ヘリオス、早く荷解きしたらどうだ?この後すぐに研修だぞ」
「うわ、やっば!何、何が要る!?」
「ったく……午前中は座学だって言ったろ?」
「俺、勉強ってあんまり好きじゃないんだよなぁ。早く体動かしたい……」
「お前、そんなことばっか言ってるからバカって言われるんだよ」
「うっさいなぁ。犬はちょっとバカなくらいが可愛いんだよ」
拗ねて唇を尖らせるヘリオスを軽く小突き、フェンガリは一足先に部屋を出て行った。ヘリオスも教本を持つと、慌ててその後を追う。
廊下に出ると、同期の研修生達も次々と教本を片手に部屋を出て行くところらしい。双子も彼等と足並みを合わせ、養成所へと向かった。

**********

「つっかれたぁ……!」
盛大な溜息を吐き、ヘリオスがフェンガリに寄り掛かる。
「ヘリオス、重い」
「だって、ずっと机に座ってたんだぞ?体もうガッチガチ」
「お前、頭悪くないくせにどうしてこう机に向かっていられないんだ……?」
わざとらしく肩を回して言うヘリオスに、フェンガリは冷めた目を向ける。
午前中の大教室での座学は、帝国に対する知識の浅い研修生達にとっては非常に為になるものだった。しかし、座学──もとい、一ヶ所におとなしく留まっていることが苦手なヘリオスにとってはこれ以上とない苦痛だったらしい。終了時間を告げるベルが鳴った瞬間、早く外に出たいとばかりに教室の扉に視線を送っていた。
昼休憩を挟んで、午後からはようやく待ちに待った戦闘訓練の開始である。
「フェンガリ、早く行こう!」
「分かってる。そう急かすな」
ふたりは愛用の槍に旗を巻き付けると、それを手にして今度は屋外訓練場へと向かう。
広々とした訓練場には研修生の姿がまばらに見えるが、まだ教官は来ていないようだ。ふたりも訓練場に降り立ち、しばらく待っていると徐々に研修生達が揃い始めた。人数が揃ったところで整列し、あとは教官が来るのを待つだけだ。
「なぁ、教官ってどんな人か知ってる?」
こそりと耳打つヘリオスに、フェンガリもまた小声で答える。
「いや。顔は知らないが……確かウラノス兄ちゃんが見たことあるって言ってたな。かなり強いらしい」
「へぇ。それは楽し……オワッ!」
「ヒッ!」
唐突に、ヘリオスとフェンガリが悲鳴を上げた。それを皮切りに、隣、そのまた隣に立つ研修生達も連鎖するように小さな悲鳴を上げる。驚きのまま振り向けば、そこにいたのは大鎌を持った眼帯の男。男は隊列の後──研修生達の背後に立つと、するりと尻を撫で上げていく。
「なっ……!?」
「どうだ、ちょっとは緊張解れたか?」
笑いを含んだ声で言い、男はゆっくりとした足取りで研修生達の目の前に歩み出た。突然尻を撫でられざわついた研修生達も、一瞬で口を閉じる。
「ようこそ、研修生諸君。俺が教官のジズだ」
ジズの発した『教官』という言葉に、フェンガリの眉間に微かに皺が寄る。いくら上官かつ同性とはいえ、真面目なフェンガリにとってジズの行動は些か不快に感じた。確かに先程まで感じていた緊張はいくらか失せたが、同時にジズへの──ひいてはこの研修自体への疑いの念が生まれてしまう。
そんなフェンガリの気も知らず、ジズは挨拶もそこそこに研修生達の顔をざっと眺めると、「早速だが」と口を開く。
「まずは簡単に実力を見せて貰うぞ。何せ二週間しかないからな、みっちり鍛えるから覚悟しとけよ?」
ジズは訓練場の中央に移動すると、手にした大鎌で空を斬った。
「ひとりずつ、順番に出てこい!」
その呼び掛けに研修生達がざわめく。あまりに突然な教官との手合せに、皆が戸惑った様子だ。誰が一番手となるか皆が様子を窺う中、じゃり、と砂を蹴りヘリオスが一歩前に出た。
「ヘリオス!?」
驚いたフェンガリが呼び掛けると、ヘリオスは顔だけで振り向く。
「んじゃ、俺が一番乗りね。フェンガリ、次はお前な!」
「勝手に決めるな!」
「いいだろ、どうせ全員戦うんだからさ」
ヘリオスは悪戯っ子のように笑うと、ジズの前に歩み出る。
「最初はお前か?」
「ヘリオスです。よろしくお願いします!」
ヘリオスが敬礼をすると、ジズはにやりと笑って言う。
「よし、じゃあ軽く打ち込んでみろ。どこからでもいいぞ」
「はい!」
ヘリオスは槍を水平に構えると、音も無く地面を蹴った。初手から高速の突きを繰り出すヘリオスに、ジズは感心したように頷く。
「へぇ。結構速いな」
口では褒めつつ、ジズは易々とヘリオスの槍を受け流した。体重の乗った攻撃は行き場を失い、ヘリオスの体勢が前のめりに崩れる。そこを見逃さず、ジズはヘリオスの背中を大鎌の柄で叩き付けた。
「っで!」
「油断大敵ってな」
「うう……!」
地面に突っ伏したまま、ヘリオスは小さく呻いた。先制攻撃を仕掛けたつもりが軽くいなされ、瞬間的に頭に血が上る。
「ほれ、終わりか?まさか一番手が一番弱いとか、そういうやつじゃねーよなぁ?」
「まさか!」
ヘリオスは跳ねる様に起き上がると、槍を水平に薙いだ。そのまま連撃を加えるが、ジズは全て易々と受け止め、観察するような目でヘリオスを眺める。
「速さは十分、力もそこそこ。でも攻撃が単調すぎるな」
「え?」
「真面目も程々にしろってこった」
にやりと笑みを浮かべると、ジズはその長い足をヘリオスの足に引っ掻けた。ヘリオスが体勢を崩したところで胸倉を掴み、地面に叩き付ける。ジズはすかさず大鎌を振り上げるが、ヘリオスも受け身を取ることは成功したらしい。地面に転がったまま、振り下ろされる大鎌を槍の柄で受け止めた。
「っ……!」
当然ジスも手加減はしているだろうが、あまりの衝撃にヘリオスの手が微かに痺れを覚える。槍の柄に巻き付けた旗がクッションとなっているが、それでもこの威力だ。まともに受けていたら、たとえ訓練といえど怪我は免れなかっただろう。
「目の前ばかりに気を取られ過ぎたな。武器持ってるからって、コレしか使わないなんて誰も言ってないぞ?」
ジズは大鎌を下げると、ヘリオスの手を取り起き上がらせた。もう勝敗は火を見るよりも明らかだろう。ヘリオスは肩を落とし、悔しそうに頭を下げる。
「ご指導、有難う御座いました!」
「おう。んじゃ、次!」
次の研修生を呼ぶ声に、今度はフェンガリが前に出る。
「フェンガリ、あの人強いぞ」
「分かってる」
すれ違い様にヘリオスと軽く拳を突き合わせ、フェンガリは静かな目でジズを見据える。ヘリオスを相手にした直後だというのに、ジズは息ひとつ乱していない。連戦であることなど、何のアドバンテージにもならないだろう。一切の油断もせぬまま、フェンガリはジズに向かって敬礼する。
「フェンガリです。ご指導の程、よろしくお願いします」
「おう。……ん、お前さっきの奴とそっくりだな。兄弟か?」
「はい。ヘリオスは双子の兄です」
「そうかそうか。んじゃ、よろしくな?弟くん」
薄らと笑みを浮かべてジズが差し出した右手を、フェンガリは即座に払い除けた。後に飛び退いて距離を開けると、ジズは感心したように目を見開く。
「ほお。よく引っ掛からなかったな」
「生憎、ヘリオス程能天気ではないので」
あのまま差し出された手を握っていれば、おそらくは地面に引き倒されてヘリオスの二の舞となっていただろう。
フェンガリは槍を構えると、ジズを中心に円を描くようにじりじりと間合いを測る。ジズは眼帯のせいで視野が狭い筈だ、死角に入ってしまえば多少なりとも反応が遅れるだろう。
「……とはいえ、そんなのお見通しだろうな」
小さく呟くと、フェンガリはジズに向かって駆け出した。
「それで隙を突いたつもりか?」
予想通り、ジズはフェンガリの気配を察してくるりと正面を向く。視界の中央にフェンガリを捉え、余裕の笑みを浮かべた。
「お兄ちゃんも真面目なら、弟くんも真面目ってか」
「……まぁ、否定はしませんが」
フェンガリは静かに答えると、ジズの目の前で勢いよく槍を振った。その瞬間、槍に巻き付いていた旗が解け、ジズの視界からフェンガリを隠す。
「生憎、俺はヘリオスより素直じゃないんです」
旗の盾に隠れたまま、フェンガリは懐から拳銃を取り出した。目に焼き付けたジズの立ち位置を思い出し、まずは足、次いで大鎌を持つ右手を狙い発砲する。銃弾は訓練用のゴム弾だが、それでもこの至近距離から命中すればかなりの痛手となるだろう。
しかし、ジズはそれもまた予想していたらしい。銃弾がその身に到達するよりも早く、大鎌の先から炎を燃え上がらせた。炎はジズの前にまるで壁のように広がり、ゴムの銃弾をその熱で溶かし、跡形も無く焼き尽くしてしまう。
「惜しかったな」
ジズは笑いを噛み殺すような声で言うと、フェンガリの旗を掴んで強く引っ張った。大鎌を槍に引っ掻けて動きを封じると、ぐいと顔を近付ける。
「不意打ちする気なら、もう少し隠れてやれ?あんなにあからさまに姿を隠しちゃ、何かしますって言ってるようなもんだろ」
言い聞かせるようなジズの言葉に、一瞬であろうと聞き入ってしまったのが悪かった。フェンガリの隙を突き、ジズが鳩尾に拳を叩き込む。
「っか、は……!」
「よし、ここまで。下がっていいぞ」
「あ……有難う、御座いました」
苦し気に顔を歪ませつつ、フェンガリは深く頭を下げる。
「よし、次の奴!」
変わらず涼しい顔のままのジズの声を背に受け、フェンガリは重い足取りで研修生達の列へと戻っていった。

「よし、今日はここまで」
研修生全員を相手にし、それでもまだジズの表情は涼しいままだ。
「今日ので大体の特徴は分かった。基礎体力作りが必要な奴もいるし、弱点の補強、得意なものがある奴は伸ばして……って感じだな。明日からは訓練メニュー毎に分かれてもらうぞ」
「はい!ご指導、有難う御座いました!!」
訓練生達は一糸乱れぬ敬礼をし、ばらばらと宿舎に戻っていく。それを見送りジズも帰ろうとするが、訓練場に残る影をふたつ見付け、足を止める。
「おい、そこの双子」
声を掛けると、双子──ヘリオスとフェンガリが同時に振り向く。
「あ、はい。何でしょうか?」
「何でしょうか?じゃないだろ。お前等、帰らないのか?」
ジズの問いに、ヘリオスとフェンガリは薄らと眉間に皺を寄せた。流石は双子と言うべきか、あまりにそっくりな表情だ。ふたりは少しだけ困ったような声で、問い掛けに答える。
「まだ元気ですし、さっき教官に指摘されたところをちょっと見直そうかな~と思って……」
「研修期間も長くありませんので。使える時間は使っておこうかと」
ふたりの返答に、ジズは呆れたように溜息を吐く。
「お前等なぁ……。真面目なのはいいけどよ、休息も訓練の内だぞ?休める時に休んでおかないで、いざという時にスタミナ切れ起こしたらどうする気だ」
「確かに……それはそうですけど」
「そう思うなら、今日はさっさと宿舎に戻れ。明日からはスパルタだからな」
「う~……何か勿体無いなぁ」
フェンガリはジズの言う通りに宿舎に戻る姿勢を見せるが、ヘリオスは不満そうにジズを見る。
「教官、俺この研修が終わるまでにもっと強くなれますか?」
「おいお兄ちゃん、俺を何だと思ってるんだ?教官の前でそんなこと言って、煽ってんのかよ」
「あ、いえ。そういうつもりじゃ」
「分かってるよ」
ジズは微かに笑いを含んだ様子で、ぐりぐりと帽子の上からヘリオスの頭を撫でた。若干乱暴な手付きだが、撫でられるのが好きなヘリオスは抵抗せずにそれを受け入れる。
「うひゃ!」
「お前等のことは、俺がちゃーんと鍛えてやるからな。……しっかし、お前随分と撫で心地いいなぁ。種族柄ってやつか?」
「あ~、かもしれないです~」
もっと撫でてくれと言わんばかりに頭を差し出すヘリオスに、ジズも興が乗って来たのか撫でる手を止めない。
「弟くんもどうだ?撫でてやろうか」
「……遠慮しておきます」
「そうか、残念」
ジズはフェンガリも誘ってみるが、フェンガリは静かに目を逸らして誘いを断るのだった。

「つっかれた~!」
ヘリオスは宿舎のベッドに飛び込むと、枕を抱えてゴロゴロと転がる。夕食もシャワーも済ませ、あとは翌日に備えて眠るだけだ。しかし、目が冴えているのかヘリオスはまだまだ眠る気配はない。
「フェンガリ、今日の訓練どうだった?」
ヘリオスが問い掛けると、隣のベッドに腰掛けたフェンガリが答える。
「どうって……まぁ、初日だからな。どうもこうも無いだろ」
「えー、どうもこうもあるだろ?だってお前、教官にボロクソやられてたじゃん」
「それ、お前が言うか?」
フェンガリが不快そうに眉間に皺を寄せるが、ヘリオスは悪びれた様子も無くバタバタと足を振り回す。
「俺はほら、一番手だったし?教官が何してくるか分かんなかったからさ。それよりも、折角教官の動き観察する機会あげたのにあっさり負けてるお前の方が問題ある!」
「お前な……!それなら言わせてもらうが、とどめの一撃に関してはお前の方が問題だろ。あれが実戦だったら、お前の首落ちてたからな?」
「うっ!」
フェンガリの指摘を受け、ヘリオスは気まずそうに視線を泳がせる。
一瞬沈黙が訪れるが、先に口を開いたのはヘリオスだった。上半身を起こすと、目を細めて真剣な表情で言う。
「あれ、教官の戦い方……というか軍人の戦い方って言うべきなんだろうけどさ。先輩やラダさんとはちょっと違うんだよな」
「違う?」
「何て言うか、俺達警官は犯人を『捕まえる』だろ?でも、軍人は敵を『倒す』のが役目じゃん。だからかな、何となく戦ってて先輩と違うな~って」
「ん……まぁ、確かにそれはそうかもな」
「強くなるのはいいけど、『倒す』技術は俺達には必要無い気もするなぁ」
考え過ぎかな?
それだけ言うと、ヘリオスは布団の中に潜り込んだ。今日はもうこれ以上の会話はせずに寝るつもりらしい。
フェンガリも布団に潜り、そっと目を閉じる。
「倒す為の技術、か」
小さく呟くが、考えるよりも早くフェンガリは意識を手放した。

**********

翌日からの訓練は、ヘリオスもフェンガリも戦術を磨くことに注力することになった。
「ざっくり言うと、お前等は視野が狭いんだよ」
ジズの言い分はこうである。昨日の手合せの結果を思えば、ふたりともぐうの音も出ない。
「相手をよく観察すること、そこから思い付く限りの戦法とその対処法を考えること、それとは逆に自分の行動は相手に悟らせないこと。これは最低限意識していくように」
「はい!」
口では簡単に言うものの、実際に鍛えるには知識や経験が必要な内容である。お互いに手の内を知り尽くした兄弟同士では、大した経験値は稼げないだろう、ヘリオスは迷わずジズに指導を仰ぐ。
「教官、何かいい訓練方法とかありませんか?」
「そうだな。とりあえず、兵法書でも読んでみたらどうだ?基礎がなってないのに応用はできないだろ。まず型を覚えて、それを適切な場面で使えるようにすること。そうすれば、自ずと弱点も分かるようになる」
「兵法書か~。おすすめってありますか?」
「お前等だと……まずは格闘技と槍術あたりか?それだったら養成所の図書室に参考書があったと思うぞ」
「わぁ!有難う御座います!フェンガリ、行こう」
「こら、走るな。……失礼します、教官」
「ああ」
ジズのアドバイスに従い図書室へ走るヘリオスを、フェンガリが追い掛ける。
これ以外にも、事ある毎に話掛けているのだろう。フェンガリが気付いた時には、ヘリオスは随分とジズと親しくなっていたらしい。とある日の昼休憩、フェンガリがひとりで食堂へ向かっていると、不意に声を掛けられた。
「よぉ弟くん、ひとりか?」
「教官」
ジズの姿を捉え、フェンガリが足を止める。
「珍しいな、お前がひとりでいるの。ヘリオスはどうした?」
いつの間にか、ジズの方からもヘリオスに声を掛ける程打ち解けていたようだ。自分と違いすぐに誰とでも距離を縮める兄に小さく感心しつつ、フェンガリが答える。
「午前の訓練中に、調子に乗って槍を振り回していたら怪我をしました。医務室で治療中です」
「へぇ~。それでひとりってわけか。これから昼飯か?」
「はい」
これで会話は終了。そう思いフェンガリがその場を離れようとすると、笑顔のジズに肩を押さえられた。
「……教官?」
「丁度良い、俺も昼飯だ。奢るから一緒に行こうぜ?たまには外で食うのも良いだろ」
返事も待たず、ジズはフェンガリの背中を押して食堂と反対方向──市街地へ出るのだろう。すたすたと進んでいく。
「ちょ、あのっ……!」
「だ~いじょうぶだって。美味いモン食わせてやるから!」
「いえっ!自分で歩きますから!押さないでください!」
抵抗したところで、聞き入れてはもらえないだろう。フェンガリは訳も分からぬまま、ジズに連れられ石畳の街へと繰り出した。
「弟くん、どうせ殆ど街に出てないだろ?」
「ええ……まぁ」
道中、ジズに話し掛けられフェンガリは曖昧に言葉を濁す。
帝国の街に興味はあるが、自由時間に外出するヘリオスに付き合う程度で、フェンガリ自身はあまり外を出歩いていない。宿舎や軍の養成所付近であれば、やっと地理が把握できてきたところだ。
「どうせ図書室に引き籠ってるんだろ。ヘリオスが言ってたぞ?目を離すとすぐ本読んでるって」
「遊んでる暇はありませんから」
「そういうところが視野が狭いって言ってるんだよ」
呆れたように笑い、ジズはフェンガリを軽く小突く。
「お前、警官なんだろ?なら、もう少し現場にも目を向けてみろ。事件ってのは外で起きるもんだぞ?もし仮に犯人が逃走したって言われたら、街のことも知らないのに逃走ルートが分かるか?」
「それは……確かに。地理だけでなく、人通りや時間帯によっても変わりますね」
「だろ。それを知るには、やっぱり実際に外に出てみるのが一番なんだよ」
ジズに言われ、フェンガリは改めて周囲の街並みを見渡す。通り過ぎる人々も、その喧騒も、漂う香りも、図書室で読んだ地図では分からないものばかりだ。
すっかり意識をそちらに飛ばしたフェンガリの肩を叩き、ジズは小さく笑う。
「ま、今はそういう教育的な話は置いておくか。ほら、着いたぞ」
「あ」
いつの間にか、目的の店に到着していたらしい。外まで漂ってくるエスニック風の香りに、フェンガリの空っぽの胃が刺激される。
「こんな店もあるんですね」
「ああ、他にも色々あるぞ?何せ人が多いからな、生活に困らない程度には店が揃ってる」
ここは特におすすめだな。
そう言って店に入るジズの背中を、フェンガリは慌てて追い掛けた。
席に通されメニュー表を渡されるが、随分と通い慣れているのだろう、ジズは既に注文が決まっているらしい。メニュー表を開きもせずフェンガリに渡す。
「好きなの頼んでいいぞ?あ、でもあんまり高いのはやめてくれな」
「教官はもう決まってるんですか?」
「ああ」
「じゃあ、俺も同じもので」
「ん、いいのか?」
「はい」
フェンガリの言葉を受け、ジズは店員を呼び注文を告げる。店員が下がると、ジズは改めてフェンガリに視線を向けた。
「さて、そういえばふたりきりで話すのって初めてだな?弟くん」
「そうですね。いつもヘリオスがいますから。……今日もヘリオスを捜してたんじゃ?」
フェンガリが素直な疑問をぶつける。正直なところ、わざわざ食事に誘われるほどジズに気に入られているつもりは無い。
フェンガリの気持ちを察したのか、ジズは軽く笑って言った。
「特別捜してたってわけじゃないけどな。いつもふたりでいるのがひとりだったから、ちょっと気になっただけだ。それに、俺もひとり飯よりは誰かと一緒の方が楽しいしな」
「成程」
「折角だ、ここらで親睦を深めるってのもいいだろ。聞きたいこととかあれば何でも答えてやるぞ?」
「……そうですか?なら……」
ジズの言葉を受け、フェンガリが言葉を選び出す。
改めて考えてみれば、フェンガリは帝国のこともジズのことも殆ど知らないのだ。注文した料理が届くまで、フェンガリは思い付く限りの質問をジズにぶつけた。

昼休憩を終えたフェンガリが養成所に戻ると、医務室での治療を終えたヘリオスが駆け寄ってくる。
「フェンガリ、どこ行ってたんだよ?食堂捜したのにいなくてびっくりした」
「ああ、悪い。教官と外に食べに行ってた」
「教官と?」
ヘリオスはフェンガリと並ぶと、ふたり揃って訓練場へと向かう。
「何か意外だな。フェンガリ、教官みたいなタイプ苦手だと思ってた」
驚いた顔を見せるヘリオスに、フェンガリは微かに苦笑を浮かべる。
「まぁ、否定はしないけどな。でも、ちゃんと話してみたら結構いい人だった」
「何話したんだ?」
「色々と。世間話とか、俺の癖とか改善点も聞いたし……そういえば、街の本屋に色々と面白い本があるらしいんだ。今度行ってみるか?」
「あ」
「ん?何だ?」
小さく笑ってジズとの会話について話すフェンガリに、ヘリオスが目を丸くする。こんなに楽しそうな彼は、研修が始まってから──どころか、ここ数年単位で見るのが久し振りな気がする。
「……やっぱり、お前も犬気質だよなぁ」
「は?」
一度懐くと、あとは早いんだよね。
そんな言葉を声には出さずに飲み込み、ヘリオスはおかしそうに笑った。

**********

あの食事以来、フェンガリの中にあった微かなジズへの抵抗感は消え失せたらしい。
「ジズ教官」
「お、何だ?弟くん」
訓練中に指導を仰ぐことは勿論、休憩時間に姿を見掛ければ声を掛け、世間話をする──ヘリオスならばともかく、フェンガリがこのような振る舞いを見せるのは珍しいことだ。
まるで親犬を慕う子犬のようにジズを追うフェンガリに、ヘリオスは笑いを堪えっぱなしだ。
「何か、フェンガリ、お前すっごい犬っぽい!」
「何だよ急に」
ヘリオスにそう言われフェンガリが顔を顰めるが、ヘリオスはまるで意に介さない。
「この前から急に教官とよく話すようになってさぁ。俺抜きでも結構一緒にいるだろ?あーあ、お兄ちゃん寂しい!」
「そんなに一緒にいるか……?というか、ウラノス兄ちゃんみたいなこと言うなよ。気持ち悪い」
「待って、気持ち悪いのはウラノス兄ちゃんだけにして!」
さらりとこの場にいない長兄を貶しつつ、フェンガリはふざけて縋りついてくるヘリオスを押し退ける。
「ふざけるだけなら後にしてくれ。俺は出掛ける」
「え、どこ行くの?」
財布を持って出て行こうとするフェンガリに、ヘリオスが訊ねる。これから昼休憩に入るが、食事にでも行くのだろうか?
ヘリオスの問いに、フェンガリは「どうせ興味無いだろうけど」と片手を軽く振って答える。
「本屋。この前教えて貰った店、面白い本が揃ってるらしいからな」
「ああー……行ってらっしゃい。休憩時間終わるまでに帰ってこいよ?お前、本屋行くと長いから」
「分かってる」
フェンガリを送り出し、ヘリオスも昼食をとろうと食堂に向かって歩き出す──が、ふと足に違和感を覚えてその場にしゃがみ込む。
「うわ、靴紐切れてる」
縁起悪いなぁ。
ぶちりと千切れた靴紐を見下ろし、ヘリオスは小さく溜息を吐いた。

本屋の軒先に詰まれた新刊を眺めると、フェンガリは適当に一冊手に取り、ページをぱらりと捲った。
帝国で売られている本は、フェンガリ達の暮らす街ではなかなか見掛けないものが多い。小説の棚には、帝国出身の作家だろうか?あまり見た事の無い名前の作者が並び、専門書は魔術の類について書かれたものが豊富に揃っている。
珍しい本の山にフェンガリが時間を忘れかけた頃、ふと店内の客が皆揃って表に出て行くことに気付いた。何事かと思いフェンガリも出てみれば、どこからか「喧嘩だ!」と叫び声が聞こえる。
「喧嘩……!?」
慌ててフェンガリが騒動の中心地に向かうと、往来の真ん中で殴り合う男性達がいた。──いや、正確にはひとりがほぼ一方的に殴っている。喧嘩と言うよりはもはや暴行、傷害事件と言った方がいいだろう。
暴行犯は、相手男性が膝をつき抵抗する力を失っても、構わずに追撃を加える。このままでは、命の危険すらあるだろう。
フェンガリは野次馬の波を乗り越えると、今にも殴りかからんとする暴行犯の腕を取り押さえた。愛用の槍を置いてきてしまったのが少々痛いが、今はそんなことは言っていられない。
「止めろ!」
フェンガリが暴行犯を制止するが、余程頭に血が上っているのだろう。暴行犯はフェンガリを振り切り、尚も相手男性に殴り掛かろうとする。
「止まれと言っている!」
「離せ!」
暴行犯は暴れるが、そこは訓練を受けているフェンガリの方が一枚も二枚も上手だ。フェンガリは暴行犯の襟首を掴むと、勢いを付けて投げ飛ばした。地面に倒れたところをすかさず抑え込み、動きを封じる。
「誰か、人を呼んでくれませんか!急いで!そちらの人にも傷の手当てを!」
フェンガリが周囲の野次馬達に向かって叫ぶと、ばらばらと人が動き出した。ある者は被害者男性を介抱し、ある者は軍人を呼びに走る。
被害者男性が安全な場所に移動したのを見届けると、フェンガリは改めて暴行犯に視線をやった。暴行犯は俯いたまま、小声でぶつぶつと何かを呟いている。
「何だ?何か──」
暴行犯の言葉を聞き取ろうと、フェンガリが顔を寄せた瞬間。
「アアアアアア!!!」
もはや言葉になっていない叫びを上げ、暴行犯がフェンガリの左腕に噛み付いた。そのあまりの力に、布越しでも腕に血が滲む。
「っ……!」
暴行犯はフェンガリが怯んだ一瞬の隙に拘束を解くと、今まで隠していたらしい、小型のナイフを懐から取り出した。切っ先をフェンガリに向け、全体重を乗せて突進する。いくらナイフが小さくとも、この暴行犯の力は強い。もし急所を狙われたらただでは済まなさそうだ。
刺される。
噛まれた左腕を庇い、反応が遅れたフェンガリが覚悟を決めた瞬間──。
「フェンガリ!!」
聞き慣れた声で名を呼ばれ、フェンガリの体が強く後に引き寄せられた。それと同時に、暴行犯の手から離れたナイフが宙に舞い上がる。
「大丈夫か、フェンガリ」
「ジ、ジズ教官…!?」
フェンガリが視線を上げると、そこにいたのはジズだった。
ジズは腕の中に引き寄せたフェンガリを解放すると、地面に落ちてきたナイフを足で踏み付けて確保する。これで暴行犯は丸腰だ。
「さて、本職に手を出してるんだ。これは公務執行妨害になるのか?罪は重いぞ」
低い声で言い、ジズが暴行犯に向き直った。そのあまりの迫力に、暴行犯も抵抗する気力を失ったようだ。ジズが腕を捻り上げると、諦めたようにおとなしく身柄を拘束される。
やがて憲兵も到着し、ジズは彼等に暴行犯を引き渡すとフェンガリに歩み寄った。フェンガリはどこかぼうっとした様子で憲兵に連れていかれる暴行犯を眺めている。
「フェンガリ、お疲れさん。よくやったな」
「あ、教官……」
ジズが声を掛けると、フェンガリはすぐに我に返るが、どこか釈然としない様子だ。
「どうした?」
「いえ……その。教官に助けられてしまって、俺ひとりでは解決できなかったなと」
申し訳無さそうに言うフェンガリは、ジズと視線を合わせない。
「手を押さえて油断しました。武器を持っている可能性にも思い至らず……ジズ教官に視野を広げるよう言われていたのに、不甲斐無いです」
そう言って肩を落とすフェンガリの頭を、ジズは優しく撫でた。褒めるような、それでいて労わるような手は、普段ふざけてヘリオスを撫で回している時のそれとは違う温かさを持っている。
「そんなに自分を卑下するな。途中から見てたんだけどな、最初にお前が止めたから被害者はあれだけの怪我で済んだんだろ?それに、ちゃんと救援も呼べていた。ひとりでやったにしては上出来だ」
「……有難う御座います」
予想外に褒められ、苦々しさを残しつつもフェンガリの頬が微かに熱を持つ。
「それより、俺としてはこっちの方が気になるな」
ジズはフェンガリの頭から手を離すと、先程暴漢に噛まれた左腕に触れた。その痛みに、フェンガリの顔が歪む。
「一体、どれだけの力で噛んだんだ?結構な怪我してるな……手当てするからこっち来い」
ジズは身に付けていたスカーフを解くと、フェンガリの袖を捲り上げ、傷口に巻き付けた。怪我をしていない右手を取り、引き摺るように養成所へと向かう。速足で医務室を目指すジズに、通りすがりの訓練兵達もそそくさと道を空けた。
「おーい……って、こういう時に限って無人かよ」
医務室に着くも、タイミングの悪いことに軍医は離席中らしい。
「仕方無い。……フェンガリ、そこ座れ」
フェンガリに椅子に腰かけるよう指示すると、ジズは手早く棚を漁り、薬と包帯を取り出す。
「とりあえず応急処置するから、腕出せ」
「そんな、それくらい自分で」
「いいから、早く診せろ。 午後の訓練は休んでいいから、軍医が戻ってきたらちゃんと診てもらえよ?感染症とか怖いからな 」
ジズに言われ、フェンガリは申し訳無さそうに傷口に巻いたスカーフを解く。腕に刻まれた歯形は歪な形をしており、肌は紫色に染まっていた。まだ血が止まっていない箇所もある。
「うわ、酷いな」
思わずそう零し、ジズはフェンガリの傷口を軽く拭くと消毒液を染み込ませた脱脂綿を当てる。
「っ!」
「沁みるか?」
「大丈夫です。……ったぁ……!」
「悪いな、我慢しろ。……他に怪我はしてないか?」
てきぱきと手当てを済ませ、ジズはフェンガリの手や肩に触れた。痛みは感じないが、触れられた箇所を中心に言い様の無い感覚が生じる。決して嫌なものではないが、落ち着かない感覚にフェンガリは小さく肩を竦めた。
「大丈夫です、有難う御座います」
「そうか?それじゃ、俺はそろそろ行くけど……くれぐれも無理はするなよ?ヘリオスにも伝えておくから」
気付けば、もうすぐ昼休憩も終わりの時間だ。
フェンガリを医務室に残し、ジズはひとり訓練場に向かった。

午後の訓練は休み、腕の治療も済んだ後。フェンガリが宿舎の部屋に戻ると、ヘリオスがバタバタと音を立てて駆け寄ってくる。
「フェンガリ!怪我したって本当!?」
「ああ、この通り」
フェンガリが包帯の巻かれた左腕を見せると、ヘリオスは頭を抱えて唸る。
「わ~、嫌な予感的中した……!昼間に別れた後、俺の靴紐切れたんだよ。食堂じゃ皿が割れるし、歩いてたら昼間なのにヤミカラスが横切ってくし、滅茶苦茶縁起悪いの!」
「うわ、それは……大変だな」
「大変なのはお前だよ!馬鹿!!」
吠えるように叫ぶと、ヘリオスはフェンガリを無理矢理ベッドに座らせた。自分も向かい合うように隣のベッドに腰掛け、「さて」と仕切り直す。
「教官から聞いた話じゃ、喧嘩止めに入って噛まれたんだって?」
「ん……まぁ、そんなところだな」
「教官はお前のこと褒めてたけど、そんなに怪我してたらお兄ちゃんは褒める気になれません!この馬鹿!」
余程弟のことが心配だったのか、ヘリオスはベッドを叩きながら言う。
「たまたま教官が近くでお昼にしてたから良かったけど、もし誰もいなかったらお前、どうなってたか分からないんだぞ」
「ああ。全部ジズ教官のおかげだ。教官がいなかったら……」
脳裏にジズの姿が浮かび、フェンガリの言葉が止まる。助けられた上に、ヘリオスにも自分を庇うような言い方をしていてくれたらしい。申し訳無さや嬉しさが綯い交ぜになり、フェンガリは苦い表情で俯く。
「フェンガリ?どうし……」
ヘリオスがフェンガリの顔を覗き込むと、苦し気に唇を噛む姿に思わず言葉に詰まる。
「フェ」
「なぁ、ヘリオス」
ぽつぽつと吐き出すように、フェンガリが言う。
「何なんだろうな。どうも俺は、ジズ教官に迷惑ばかりかけている気がする。ジズ教官に近付けるように教えを乞うて、そのくせ犯人を取り逃して、それなのにジズ教官は嫌な顔ひとつしないどころか俺を褒めてまでくれる」
左腕の包帯を軽く撫で、フェンガリは昼間のやり取りを思い出す。教官と訓練生という関係上、叱られることも褒められることもどちらも日常茶飯事だ。ただ、他の指導員からのものに比べてジズからの評価はフェンガリにとって価値のあるものに感じられた。認められたい気持ちと、それに見合わない実力に歯痒さばかりが増していく。一体、彼はどんなつもりであの時包帯を巻いていたのだろう?
「本当、何なんだろうな……」
はぁ、と深い溜息を吐くフェンガリに、黙って聞いていたヘリオスがおもむろに口を開いた。
「……フェンガリー?」
「ん?」
「お前さ、もしかして……教官のこと好き?」
「は?……そりゃ、尊敬して」
「いやいや、そうじゃなくて」
「……は?」
何を言っているんだ。そう言いたげな目を向けるフェンガリに、ヘリオスは「だって」と言葉を続ける。
「教官にどう思われてるか気になるんだろ?」
「そう……だな」
「教官に追い付きたいって思ってる」
「ああ」
「それに教官がいたら真っ先に声掛けてるし、いなかったら捜してる」
「そうか?」
「そうだよ。自覚無いの?」
ヘリオスの問い掛けに答えながら、フェンガリは努めて冷静に考える。
確かに、どうせなら良く思われたいのは事実だ。
一警察官として、教え子として、ただの男としても。彼に並んで恥ずかしくない人物になりたいと思う。
最近話す機会が増えた気はしていたが、いつの間にか人ごみの中でもあの青みがかった銀髪を見分けるのが早くなってきたかもしれない。
……そういえば、先程はそれどころではなくて気に留めていなかったが、「フェンガリ」と名を呼ばれたのは今日が初めてではないだろうか?
「……!」
そこまで考えが至り、かぁっとフェンガリの顔が熱を持つ。
「うわっ、凄い!赤っ!」
「い、いやいや……まさか。そんなことないだろ」
ぶんぶんと首を振り、フェンガリは否定しようとするが、どうにも言葉に力が籠らない。
「お前も言ってただろ、俺が犬気質だって。きっと、物凄く懐いてるだけで」
「フェンガリ。お前、トリトン先輩に滅茶苦茶懐いてるけどさ。どれだけ褒められたってそんな顔になったことないだろ」
「……男同士だぞ?」
「お前、俺に向かってそれ言う?」
すぅ、とヘリオスが左手を掲げた。その薬指には、銀色の指輪が輝いている。
「俺だって、ラダさんに会うまで男に興味無かったけど?あ、今もラダさん以外には興味無いから!あの人が特別なだけ!」
「……何か、こう。きっかけとかあったっけ……?」
「お前、結構粘るなぁ……。きっかけな~、俺が見た限りだと、一度ふたりでお昼行ってただろ?あれだと思うけど。ま、フェンガリの場合は昔から一目惚れよりじわじわ好きになるパターンが多かったもんな。今回もそうじゃない?」
「……はぁー」
ヘリオスに完全に論破され、フェンガリはベッドに倒れ込む。
「大丈夫?」
「ちょっと待ってくれ……軽くキャパ超えしてる」
「まぁ、今日まで完全に無自覚だったっぽいしね」
少しおかしそうに笑うヘリオスに、フェンガリは恨みがましい目で言う。
「ヘリオス。お前、気付いてたなら言えよ」
「いや、まさかここまで自覚無いとか思わないだろ」
「ちょっと待ってくれ……少し整理させてくれ」
「それはまぁ、ご自由に。でも」
ベッドの上でのた打ち回るフェンガリに、ヘリオスは少しだけ心配そうな声で言う。
「研修期間、もうすぐ終わっちゃうからさ。それまでにどうにかした方がいいと思うけどな」
「……分かってる」
この感情がただの憧れであれ恋慕であれ、研修期間が終わってしまえばそう簡単には会えなくなる。どうにか決着はつけよう──そう悩む内に、フェンガリの意識は眠りの波に呑まれていった。

**********

「フェンガリ」
「……ジズ教官」
訓練場に向かう途中、ジズに名を呼ばれフェンガリが足を止める。
「怪我はどうだ?思ったより元気そうだが」
「はい、おかげさまで。触ると少し痛みますけど、傷はもう塞がってます」
「そうか、それなら安心だ」
目を細めるジズに、フェンガリも小さく笑みを浮かべる。今日の今日で意識が変わったせいだろうが、自分のことで表情を変えるジズに満足感のようなものを覚える。
「ご心配をお掛けしました」
「万が一にも悪化しないよう気を付けろよ?研修も残り少ないんだし、こっから先全部見学なんて言われたら洒落にならないからな」
ジズはけらけらと笑うが、フェンガリは彼の言葉にどきりと肝を冷やす。そうだ、研修の日程も残り僅かだ。本人にこの事実を突きつけられ、途端に名残惜しさが湧いてくる。
笑えば嬉しい、離れるのは寂しい。このように感じるのは、やはり。
「……フェンガリ?おーい」
すっかり考え込んで無言になるフェンガリの目の前で、ジズが手を振ってみる。
「どうした、大丈夫か?」
「……ジズ教官」
遺された時間は少ないのだ。例え結果がどうなろうと、伝えるのは早い方がいいだろう。何より、こんなにもやもやとした目で彼を見続けるのも心苦しい。
フェンガリは飛ばしていた意識を取り戻すと、ジズの目をまっすぐに見詰めて懇願する。
「教官、今日の訓練が終わった後、少しお時間を頂けますか?」
「え?」
「少しで構いません。お話したいことがあって。できれば、その……あまり人がいないところだと助かるんですけど」
「聞かれると困る話か?」
「まぁ……そうですね。あまり人前で出すような話題では」
「そうか。……それじゃ、養成所の本館裏に来い。あそこなら誰も来ないだろ」
突然の頼みを快く受けてくれたジズに、フェンガリはほっと胸を撫で下ろす。こんなに怪しい誘い方をしたのに断られないのは、少なくとも嫌われてはいないということだろう。それだけでも強い安心感が得られた。
「有難う御座います」
「別に、話くらいいいっていいって。それに、お前から俺を誘うのなんて初めてだしな」
薄く笑みを浮かべるジズに、フェンガリの胸の内がちくりと痛む。
もしかしたら、この笑みを失うかもしれない。リスクは大きいが、一縷の望みに掛けたい気持ちが大きかった。

その日の訓練は、フェンガリは無心になって槍を振るった。
雑念は捨て、ただ槍捌きを磨き上げる──そうして気が付けば、いつの間にか一日分の訓練が終了していた。続々と研修生達が宿舎に戻っていく中、フェンガリはそっと流れから抜け出し指定の場所へと向かう。
養成所の本館裏。ジズが言った通り、人の気配はない。ここなら、誰かに邪魔されることなく思いを告げることができるだろう。──たとえ、どのような結果になろうとも、だ。
ジズの姿はまだ無いが、今日の訓練の片付けや、明日の支度もあるのだろう。フェンガリは一度大きく深呼吸すると、不思議と落ち着いた気持ちでジズが来るのを待った。もしかしたらただ開き直っただけなのかもしれないが、慌てふためくよりは余程いい。
五分、十分──気持ちの上では、もう一時間は経ったような気さえする。しばらく待っていると、背後に人の気配を感じフェンガリが振り返る。そこには、待ち望んでいた姿があった。
「ジズ教官」
「待たせたな。で、話って何だ?」
ジズはフェンガリの正面に立つと、静かに話を聞く姿勢を見せる。
フェンガリは口を開くが、いざ本人を前にすると急に恐怖感が襲ってくる。拒絶されたら、研修終了までの残り数日を果たして耐えきれるだろうか?
「あ、の……」
固く握った拳が震える。逃げ出して今の穏やかな関係を維持していたい──そんな気持ちも微かに生まれるが、ジズはもう目の前にいるのだ。フェンガリは覚悟を決め、言葉を紡ぐ。
「あの、先にこれだけ言わせてください」
「ん?」
「これから言うことに、無理に応えて欲しいだなんて言いません。不快だと仰るならば、二度とそんな素振りは見せません。……研修が終わるまで、顔は合わせますけど。絶対におかしな真似はしないと約束します」
「……何だ?」
ジズも察したのだろうか?思いの外優しい声色に、フェンガリの顔に熱が集まる。
「ジズ教官。俺は……貴方が、好きです」
口から零れてしまった言葉は、どう足掻いても戻せない。フェンガリは期待と不安の入り混じった気持ちでジズを見る。
ジズは小さく「そうか」と呟くと、穏やかな声でフェンガリに問う。
「フェンガリ。それは、教官として尊敬してるとか、そういう意味じゃないよな?」
「違います。あ、いえ、確かに教官としても尊敬していますが……それとこれとは、別、です」
「そうか……そうか」
ジズは軽く天を仰ぐと、小さく長い溜息を吐いた。その姿に、フェンガリは身を強張らせる。
「なぁ、フェンガリ」
「はい」
「俺から教官っていう肩書取ったら、ただの柄の悪いお兄さんだぞ?正直、お前が嫌いそうなタイプだろうなって思うんだが。はっきり言って、第一印象も良くなかっただろ?」
「それは……」
「俺より良い奴、それこそ運命的な相手がいるかもしれないんだ。一時の気の迷いみたいな想いで棒に振ったら、後悔するのはお前なんだぞ?」
「…………」
ジズの言葉に、フェンガリは俯く。
これは、遠回しに断られているのかもしれない。まだ研修期間が残っているからと、フェンガリを傷付けないように──研修に支障が出ないように教官として気を回しているのかもしれない。
そんな考えが脳裏を過ぎり、フェンガリは言葉に詰まる。沈黙が訪れるが、ジズもフェンガリの返答を待ってくれているのだろう。その場を動く様子はない。
どれだけの間そうしていただろう。やがて、フェンガリが絞り出す様な声で言った。
「気の迷いなんかじゃ、ありません。俺は本気です」
「フェンガリ」
「確かに、第一印象はあまり良くありませんでした。随分と軽薄な人だと思いました。でも、この十日程で俺は貴方の色々な姿を見て、いつの間にか惹かれていたんです。気の迷いで切り捨てるには……もう、手遅れですよ」
「……それなら訊くが」
ジズはじり、とフェンガリに近付いた。少しずつ距離を詰めてくるジズに、フェンガリは反射的に後退る。
「き、教官?」
「お前、俺に惚れたって言うけどな?そう言うってことは、俺と『そういう仲』になるのも平気ってことだよな?」
じりじりと追い詰められ、いつの間にかフェンガリの背中は養成所の外壁にぴたりとくっ付いていた。ジズは逃げ場を塞ぐように腕を伸ばし、フェンガリを壁に縫い付ける。
「ガキじゃないんだ。ただ単純になかよしこよし……なんてならないのは、お前だって分かってるだろ?」
ジズの手がフェンガリの頬に触れる。
フェンガリは一瞬小さく身を震わせたが、それ以上に心臓が大きく跳ねている。そっと手を伸ばすと、ジズの手に己の手を重ねた。
「勿論ですよ。貴方になら、出来る限りのことをしてあげたい。何をされてもいいと思っています」
「……本気なんだな?」
「先程からそう言っています。……それよりも、あの、教官こそ……断るのであれば、いっそ一思いにお願いします。貴方は、俺のことをどう思っているんですか?」
もう、言いたいことは全て伝えた。あとはジズの返答次第だ。
フェンガリが問い掛けると、ジズは何か重いものを吐き出すかのように深い溜息を吐いた。フェンガリの頬を指先で軽く撫で、柔らかい眼差しを向ける。
「……なぁ、フェンガリ。俺の性格的に、もし嫌だったらすぐに断ってるって思わないか?」
「え」
「お前が本気だって言うなら、何も問題無いだろ。……俺もお前と同じだよ」
「……本当ですか?」
「いくらなんでも、こんな時に冗談は言わないっての」
「っ……!あ、有難う御座います教官!!」
深く深く頭を下げるフェンガリに、ジズは小さく笑みを浮かべる。
「おいおい、晴れて恋人同士だってのに教官はないだろ?」
「えっ……!あ、そう、ですね。えっと……改めて、よろしくお願いします。ジズさん」
「……そこは『さん』は要らないと思うけどな?ま、今日のところは許してやるよ」
わしわしと頬や頭を撫でるジズに、フェンガリは幸せそうに目を細める。
あと数日でふたりの距離は離れてしまうが──それについては、追々考えよう。

**********

ずらりと訓練場に並ぶ研修生達を前に、ジズが高らかに宣言する。
「それではこれより、新人研修の最終試験を行う!最終試験は初日と同じ、俺との手合せだ。全員、少しは成長してるところ見せてくれよ?」
遂に迎えた最後の研修は、初日と同じ形式でのジズとの手合せだ。
あの時と同じように、まずはヘリオスが前に出る。
「教官、よろしくお願いします!」
「おう、よろしくなヘリオス。さて、お前はどれだけ強くなった?」
大鎌を悠々と構えるジズに、ヘリオスは不敵に笑う。
「さて、どうでしょうね?もしかしたら、教官にも勝っちゃうかもしれませんよ?あ、勝ったら御褒美とか貰えます?」
「お前、随分と大口叩くな?よし、手加減は無しでいくぞ」
「あっ、しまったっ!」
軽口を叩きながらも、ヘリオスは槍を構えジズに斬りかかった。案の定ジズは軽く受け流すが、ヘリオスは弾かれた勢いで槍を回転させ、先端ではなく柄の方を使いジズを下から打ち上げる。
「お、ちょっとは成長したな?」
「へへ。図書館に棒術の本があったので、参考にしてみました…っと!」
「それは結構。勉強熱心な新人は好きだぜ?」
ジズも負けてはおらず、大鎌を自在に操りヘリオスを追い込んでいく。激しい打ち合いが続くが、先に膝をついたのはヘリオスだった。
「これで終わりだ!」
蹲るヘリオスの背中目掛け、ジズが大鎌を振り下ろす。
その瞬間、待ってましたと言わんばかりにヘリオスが立ち上がり、ジズの足に飛び掛かった。
「っらぁ!」
「うぉっ!」
ヘリオスに足をとられ、ジズは地面に引き倒された。入れ替わりにヘリオスが立ち上がろうとするが、そこは教官としての矜持もある。易々と負けてはいられない。
ジズはヘリオスの襟首を掴むと、彼の腹を蹴り上げ宙に浮かせた。そのまま勢いに乗せて投げ飛ばす──所謂、巴投げである。
「いっ……てぇ!」
投げ飛ばされたヘリオスはすぐさま立ち上がろうとしたが、一瞬遅かったようだ。首筋にジズの大鎌を当てられ、動きが止まる。
「残念だったな、ヘリオス。俺の勝ちだ」
「……参りました」
「でもまぁ、初日と比べたら随分良くなったぞ?まさか俺も、地面に転がる羽目になるとはなぁ」
ヘリオスの手を取って立ち上がらせると、ジズは激励するようにその背中を叩いた。
「さ、次は……フェンガリだったな。出てこい!」
ヘリオスとの手合せが終わると、次はフェンガリの番だ。
フェンガリはヘリオスとすれ違いざまに軽くハイタッチし、ジズの前に立つ。
「よろしくお願いします、ジズ教官」
「ああ。頑張ってくれよ?勝ったら御褒美だ」
「またまた、御冗談を──!」
小さく笑うと、フェンガリは一瞬でジズとの距離を取った。
いくら晴れて恋人同士になったとはいえ、それとこれとは話が別である。今はただひとりの教官と研修生として、本気の手合せだ。
フェンガリは懐から拳銃を取り出すと、ジズに向かって発砲する。
「またコレか?様子見のつもりかもしれないが、程々にな!」
ジズは易々と銃弾を捌き、弾かれた銃弾は地面に落ちる。全部で五発、フェンガリは拳銃が弾切れを起こすまで連射したが、そのどれもがジズの体に掠りもしなかった。
「さて、もう弾切れか?そろそろ遊びは──」
フェンガリと距離を詰めようとジズが踏み出した瞬間。
「っ!」
ジズの足元で、先程地面に落ちた銃弾が弾け飛んだ。予想外の出来事に、ジズは思わず後退る。
「成程……さっきの弾はステルスロックってわけか」
「教官を相手にするなら、動きを制限しておかないと辛いものがあるので。気を付けてくださいね、あと四発ありますから」
にこりと、フェンガリが口元だけで笑う。
ジズはしばし考えたが、すぐに何か思いついたらしい。にやりと目を細める。
「フェンガリ、確かにこれは頭を使ったな。当てても良し、外しても無駄にならないいい弾だ。でもな」
ジズは大鎌の先に炎を纏わせると、自分の周囲一帯を薙いだ。直後、転がっていた銃弾に反応したのだろう。小さな爆発が四発起こり、その煙でジズの姿が隠れる。
「しまっ……!」
「ちょっと惜しかったな。でもまぁ、やり様によっては上手くいきそうだ。もうちょっと練り上げるように」
ジズは煙に紛れてフェンガリに近付くと、大鎌で斬りかかった。すかさずフェンガリも槍で防ぐが、主導権は既にジズが握っている。
「悪いな、フェンガリ。また俺の勝ちだ」
笑うと、初日の手合せと同じようにフェンガリの槍を大鎌で絡め取った。そして胴体に拳を叩き込むが──そこはフェンガリも経験済みだ。空いている手でジズの拳を受け止め、直撃を避ける。
「……ほぉ」
「二度も同じ手は喰らいません!」
片手で大鎌を持ち、もう片手はフェンガリに掴まれ、ジズは動きを封じられた。しかし、余裕の表情は崩れない。
「……何です?」
「ん?いや、やっぱりお前は真面目というか何というか……」
「え?」
「歯ァ食い縛れ?」
ジズは上半身を大きく逸らすと、勢いよくフェンガリに頭突きした。
ゴンッと鈍い音がし、フェンガリがゆっくりとその場に崩れ落ちる。
「っ……!!?」
「悪いな、俺こう見えて石頭なんだよ。……大丈夫か?立てる?」
「……ええ、どうにか」
少しだけふらつきながら、フェンガリが立ち上がった。帽子のおかげで脳震盪は起こさずに済んだようだが、それでも視界は揺れている。
「あっちで休んでろ。転ぶなよ?」
「はい」
槍を杖代わりに、フェンガリは整列する研修生の中に戻っていく。その背後では、まだまだ元気なジズが次の手合せを始めていた。

やがて全員の手合せが終わり、遂に二週間に亘る研修も終了を迎える。
最終日も、やはりジズが研修生全員に勝利する形で終わった。初日よりは多少時間がかかっているものの、概ね楽な勝利だったようである。
「二週間、よくやった。今後も慢心せずに、しっかり励むように」
「ご指導、有難う御座いました!!!」
研修生達はそれぞれに傷を負いながらも、晴れ晴れとした表情で敬礼をする。
「それでは、終了!解散!」
ジズの声に、研修生達はぞろぞろと宿舎へ戻っていった。
この研修旅行の最終日となる明日は、丸一日が自由行動日となる。帰りの飛空艇の便は明後日の昼だ。研修生達は最後に羽を伸ばす為にと、今日は早く宿舎に戻って休むつもりらしい。
「フェンガリ、俺先に戻ってるな!」
そう言って宿舎に駆けていくヘリオスの背中を見送り、フェンガリは列の最後尾をのんびりと歩く。
他の研修生達とは距離を置き、まるで何かを待つようなフェンガリを、ジズが呼び止める。
「フェンガリ」
「……教官」
ジズに名を呼ばれ、フェンガリは足を止めた。振り向くと、ジズは静かにフェンガリの傍に歩み寄る。
「……さっきは残念だったな。なかなかいい線いってたんだが」
「ええ。そうですね……相手が悪かったと思うことにします」
「ん、まぁそれも一理あるかもな」
小さく笑うと、ジズはフェンガリの帽子をそっと外した。額に手を当て、赤い前髪をかき上げる。
「あの、教官?」
「さっき頭突きしたろ?コブとかできてないか見せてみろ。ほら、目ェ閉じて」
そう言って目を閉じさせると、ジズはフェンガリに顔を寄せた。そのまま、唇を重ねるだけのキスをする。
「っ!?ジズさっ……!」
驚いたフェンガリが声を上げると、ジズはさもおかしそうに笑って言う。
「さっき手合せの時に言ったろ?勝ったら御褒美だって。あ、コブはできてないから安心しろな」
「それはどうも。……じゃなくて!こ、こんなところで誰かに見られたらどうするんですか!?」
「大丈夫だって、帽子で隠したから」
「う、うわぁ……」
フェンガリは恥ずかしそうに頭を抱えるが、その表情は決して嫌がっていない。ジズはフェンガリの背中を軽く押すと、宿舎へ戻るように促す。
「さて。御褒美も貰ったところで、今日は早く休め?それで、明日は一日付き合って貰うぞ。帰ったらしばらく会えなくなるからな」
「あ、はい。そうですね」
「デートコース、ちゃんと考えとけよ?」
「……ジズさんこそ」
小さく微笑むと、フェンガリは軽くお辞儀をして宿舎へ走って行った。きっと、大急ぎで食事とシャワーを済ませて明日に備え眠るのだろう。
その姿を想像して思わず唇の端を上げながら、ジズもゆっくりと訓練場を後にした。
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橋谷あも

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